たまたまですが『すきはな』と同じビルにすき焼きチェーン店の『木曽路』が入っています。もし仮に『すきはな』が軌道に乗り出した場合、同じことをやろうとしたらどうでしょう。

 顧客層に関しては老舗のすき焼きチェーンは自店の常連客を呼び込める点で『すきはな』よりも有利です。

 ボトルネックは味でしょう。伝統の割り下はおそらく使えません。野菜と一緒に煮ることを前提に設計されているからです。結局、味は一から設計し直すことになります。

 そのうえでメディアからは「どちらが美味しいか?」と比較されることでしょう。それがSNSの好奇心にさらされるリスクを考えたら、老舗チェーンが同じ土俵に参入するのはためらわれることでしょう。

 まとめると、ビジネス面の課題は多いけれどもたぶん大丈夫ということが冒頭の70点の意味するところでした。

 さて、最後までお読みいただいた読者のためにお得な情報をひとつご提供してこの記事を終わります。

『すきはな』にでかけて食事の終盤に卵かけご飯を愉しんでいるときのアドバイスです。

 目の前をよく見てみてください。食べ終わったすき焼き鍋に割り下がたまっています。これ美味しいんです。

「いきなりすき焼き!?」いきなりステーキ運営会社の新業態、老舗「木曽路」がマネできない巧妙戦略肉を焼いた後、鍋の底には旨味たっぷりの割り下が残る Photo by Takahiro Suzuki
「いきなりすき焼き!?」いきなりステーキ運営会社の新業態、老舗「木曽路」がマネできない巧妙戦略Photo by Takahiro Suzuki

 想像してみてください。極上の米沢牛を低温でじっくりと焼いた際の肉汁は、たっぷりと割り下が吸っています。これをお店の人にお願いして、取り皿に注いでいただきます。

 卵かけご飯は最初にあおさの風味を愉しんだ後、お好みに応じて醤油を加えるのが公式プロセスです。

 が、その際、醤油ではなく割り下を四角い取り皿の角の注ぎ口からご飯茶碗に適量注いでかき混ぜてみてください。味の評価が92点になりますよ。