感心してはいけないが、分かりやすいたとえだった。後から聞いた話では、西山代理は私たち後輩のカレンダー配りが進んでいないのを見るにつけ、怒られるだろうと心配し、今回の犯行に及んだそうだ。
西山代理は、後輩思いな兄貴分のような漢であった。私の銀行員人生の中でも、堂本支店長のパワハラは突出して悪質なものだった。しかしその反動もあり、西山代理は率先してチームワークを形成し、私たちも大いに応え、いくつもの苦境を乗り切っていた。
しかしながら、犯行というといささかオーバーに感じるが、事業用ゴミの不法投棄はれっきとした犯罪である。法を犯したことには変わりない。今、振り返ると笑い話。たかがカレンダー、されどカレンダーである。
「どこまでズレてんだ、うちの銀行」
カレンダー配布廃止で始めたサービスに脱力
話を現在に戻そう。2020年初頭から始まったコロナ禍において、密を避け接触を避ける行動様式は、銀行営業のスタイルまで変えてしまった。取引先を訪問せず、来店も極力断る中で、M銀行は2021年からカレンダーの配布を廃止したのだ。
あれほど狂ったように配り歩いていたカレンダーがなくなった。銀行がコロナに乗じて廃止したサービスは他にもたくさんあるが、私にとってカレンダーがなくなったことはセンセーショナルな出来事だった。
廃止直前の2020年11月、本部から通達とポスターが届いた。カレンダーの見本とQRコードが入っていた。内容を読むと「『カレンダーの配布はございません。お手数ですがQRコードを読み取り、ご自身でダウンロードしてください』と説明しろ」と書いてあった。
「マジか。ダウンロードって何だよ…」
「こんなの説明できませんよ!」
「どこまでズレてんだ、うちの銀行」
目黒冬弥 著
次々に不満が噴出した。来店客や取引先にカレンダーを配ったことがない者による企画など、この程度のものだろう。来店客の中には、毎年カレンダーを部屋に飾って過ごして下さる人もいる。今年はどんな絵柄だろうと、楽しみにしていた人もいるだろう。新聞紙見開きほどの大きさに印刷できる人など、ほとんどいない。スマホの待ち受け画面にでもさせたいのか。
年末のカレンダー配布は重要だと声高に叫んでいた上司は、昭和もしくは平成一桁入行の世代。いとも簡単に配布を止めるのは、それ以降の世代。その決定にいつも振り回されるのは、現場の我々である。
そんなコロナ禍が明け、今年は久しぶりに紙製のカレンダー配布が復活した。おそらく、たくさんの利用客から厳しいご意見をいただいたからかも知れない。久しぶりのカレンダー巻き。年の瀬の雰囲気になってきた。
子供の頃、我が家は父が勤める会社のカレンダーが飾られていた。1年を通して、茶の間に父のカレンダーがあることが、当たり前の風景だった。現在の我が家でも、保険会社が年末の挨拶でみなとみらい店を訪れた際に、進呈してくれたカレンダーを飾っている。
たかがカレンダー、されどカレンダーである。
この銀行に勤務して、四半世紀が過ぎた。悲喜こもごも、たくさんの出来事があった。私は今日もこの銀行に感謝しながら、日々の業務に明け暮れている。
(現役行員 目黒冬弥)