ICカードを使わない
新しいSuicaには懸念も
問題はIDだ。JR東日本にはモバイルSuica、えきねっと、VIEWカードなどさまざまなサービスに個別のIDがあるが、2025年2月に共通ID「JRE ID」を開始し、これらサービスのIDを順次、統合していく。これがそのまま「Suicaアプリ(仮称)」につながっていく格好だ。
さて、そんな大きな可能性を秘める「Suicaアプリ(仮称)」だが、懸念もある。センターサーバー式 Suicaに全面移行すると、リード・ライト機能を有するICカードが必要な全国共通ICカードが使えなくなってしまうのだ(併存は可能だがコストメリットがなくなる)。
これについてJR東日本は、「他交通事業者と協調、共生を行い、社会における持続可能な交通系IC乗車券システムの実現に貢献していきます。そのためにセンターサーバー化によりSuicaサービスを共通プラットフォームとして構築し、他交通事業者のシステム導入や更新時におけるコストを抑え、ニーズに応じてご利用いただけるようにしていきます」として「他交通事業者へのSuicaサービスの提供」を進めると表明している。
同社は2027年度までにID統合、2028年度に「Suicaアプリ(仮称)」の提供を開始する。その過程で「2026年秋頃にはモバイルSuicaアプリによるコード決済機能などの新しい決済体験」「2028年度にはお客さまに応じた割引やクーポンなどのこれまでにない便利な移動体験の提供」など、段階的にサービスを拡大していく計画だ。
その上で「今後10年以内にはチケットやSF(ストアードフェア=チャージ残高)などのバリューをセンターサーバーで管理するシームレスで便利なサービスの提供を目指します」としているので、全面的なセンターサーバー化は10年単位の取り組みと位置付けているようだ。
そうなると、それまでに全国共通ICカードサービスを提供する各社に共通プラットフォームを提供する形で話が進むはずだ。各事業者としてもイニシャルコスト、ランニングコストの負担軽減は悪い話ではない。
今回、発表された新サービスだけであれば10年もかけるが必要ないという印象を受けたが、単独での新システム移行が困難というのが本当の理由なのだろう。
JR東日本は2024年5月、東武、西武など鉄道事業社7社と共同で2026年度以降、共通サーバーを利用したQRコード乗車券を導入し、磁気乗車券を置き換えていくと発表している。
QRコードからIDを読み込み、センターサーバーで処理する仕組みは次世代Suicaと同じであり、一連の動きは連動しているとも受け取れる。今後の10年で、JR東日本を中心に次世代改札システムが構築されることになるだろう。