「伝えたいけど伝わらない」を解決してくれる一冊

団塊の世代がしてきたコミュニケーションでは、<br />限界だと感じ始めている<br />【姜尚中×佐々木圭一】(前編)姜尚中(カン サンジュン)
1950年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。東京大学大学院情報学環教授。専攻は政治学・政治思想史。著書に『マックス・ウェーバーと近代』『オリエンタリズムの彼方へ』『ナショナリズム』『東北アジア共同の家をめざして』『日朝関係の克服』『在日』『姜尚中の政治学入門』『愛国の作法』『ニッポン・サバイバル』ほか。共著に『ナショナリズムの克服』『デモクラシーの冒険』ほか。

佐々木 日本人には昔から、「少し話しただけですべてを理解してあげるべきだ」という文化がありますよね。それが、姜さんがおっしゃるグローバル化の影響もあって、伝わっているつもりが伝わっていないとか、愛情をもってやったことが通じなくて、逆に相手が気分を害するということが、起きているんだと思います。

 どうもみんなが、「伝わらない」ということを意識し始めている。そして、地方とかローカルなものだけでは通じない時代が来たし、それこそ僕より少し上の、団塊の世代がしてきたコミュニケーションのあり方では限界だと感じている。この『伝え方が9割』という本が耳目を集めた理由には、そういうことへの戸惑いもあるでしょう。

 だから僕は、当然、誰かがこういう本を書かざるを得なくなると感じていました。メタレベルでコミュニケーションを反省し直して、位置づけする。そういう人が出てくるだろうと。

佐々木 「メタ」というのは、客観的に見るということですか?

団塊の世代がしてきたコミュニケーションでは、<br />限界だと感じ始めている<br />【姜尚中×佐々木圭一】(前編)佐々木圭一(ささき・けいいち)コピーライター/作詞家/上智大学非常勤講師 上智大学大学院を卒業後、97年広告会社に入社。後に伝説のクリエーター、リー・クロウのもと米国で2年間インターナショナルな仕事に従事。日本人初、米国の広告賞One Show Designでゴールド賞を獲得(Mr.Children)。アジア初、6カ国歌姫プロジェクト(アジエンス)。カンヌ国際クリエイティブアワードでシルバー賞他計3つ獲得、AdFestでゴールド賞2つ獲得、など国内外51のアワードを獲得。郷ひろみ・Chemistryの作詞家としてアルバム・オリコン1位を2度獲得。twitter:@keiichisasaki写真/賀地マコト

 ええ。自分がやっていることを別の目で見る、俯瞰することです。普通の人は、しゃべっている段階で、すでにコミュニケーションの枠の中に自分が入り込んでしまっているから、俯瞰ができません。だから、誰かがもうひとつの目で見て、位置づけしてあげる。

 この本は、その助けになります。もちろん就活などにも使えるでしょうけれど、部下を持っている中堅サラリーマンとか、人に何かを伝えなければいけないサービス産業で働く人には、とても実用的じゃないかと思いますね。

 ご存じのとおり今、日本社会の圧倒的多数は、非物質的な認知労働者です。彼らが何に悩んでいるかと言ったらこれ。「伝えたいけど伝わらない」という一言に尽きます。タイトルどおり9割できるんだから、これさえ読めばいいんだな、と。僕も東大の情報学環にいましたし、いつかこういう本を書くように薦められてもいたけれど、先を越されてしまった(笑)。

佐々木 僕自身そうだったんですが、とくに若い頃に、思ったことをそのまま口にして失敗したことがすごく多くて。それが、コピーライターという職業に就いて、アイデアを誰かにプレゼンしなければならなくなりました。コミュニケーションそのものが仕事になってしまったんです。

 たとえば、こういうCMのアイデアがあって、面白いからやりましょうと言っても、もちろん簡単にOKは出ません。だからいつも、なぜこれがクライアントにとってメリットがあるのか、このCMを打つことでどういうことを巻き起こすのか、そういう相手の視点でのみ話して、伝えるようにしています。

 ポイントは一点だけで、「相手のことを想像して伝える」。それが、この本に書かれているすべてです。