例えば、1月1日、旧ユーゴスラビアのモンテネグロ南西部ツェティニエで、45歳の男が酒場で大量に飲酒をした後、銃を乱射して、子ども2人を含む12人を殺害するという痛ましい事件が起きている。もし日本でもこのような「飲酒殺人」が起きて、社会の注目を集めたら一気に世論が動くかもしれない。

 このような最悪のシナリオを回避するため、ビール業界は「適正飲酒」を呼びかけている。最近、アサヒビールが「スマドリ」という言葉を掲げて、「飲む人も飲まない人も、みんな飲みトモ」と呼びかけているのもその一環だ。

 ただ、日本のタバコ企業がWHOの世界戦略に屈してきた経緯を見てきた立場から言わせてもらうと、「生ぬるい」と思う。

 WHOが最終的にタバコ撲滅を目指しているように、この組織は「人々の健康を害する要因」の排除をあきらめない。そのためには、がんなどの健康リスクだけではなく、社会への悪影響も徹底的に追及するだろう。つまり、業界をあげて「飲酒関連の犯罪」の対策に取り組んでいかないと、相手につけ入る隙を与えてしまう。

 よく外国人観光客が指摘するが、世界的に見ても日本人の酔客はひどい。道で吐く、寝る。立場の弱い人に酒を強引に勧める、オラついて大声で周囲を威嚇する。酔って隣の客に絡む。駅員やタクシー運転手に暴力を振るう。こういう日本の「無礼講文化」のおかげで、ビール業界が潤ってきた部分もあるが、もはやそういう時代ではない。

 酒を売っていくことと同じくらいの熱量で、「飲酒の害」を社会に訴えていく。それくらい捨て身で戦わないと、タバコと同じ運命を辿っていくのではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)

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