「何度も山火事は経験したけど、こんなに自分の住む場所に近い火事は初めてだ。幼い頃から知ってるレストランも軒並み燃えてしまった。もはや単なる山火事などではなく、巨大な炎が住宅地を飲み込んでる。自分の愛する故郷のコミュニティがこんなことになるなんて。なんとかして火災を食い止めなきゃ」
自宅に到着した時、筆者のスマホに「あなたがお住まいの地区全域は、火事の影響で現在停電しています」というアラートが表示された。最大風速が時速100キロ近い凄まじい強風がゴーゴーと吹きすさぶ夜だった。
![【ロサンゼルス山火事ルポ】「もはや戦場だ…」現地在住ジャーナリストがつづる、過去最大の恐怖と一縷の望み](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/3/e/650/img_3e8f2e092afdd3c23cb759d919be58dc34631.jpg)
「いつ炎に包まれてもおかしくない」
家の中の撮影がマストな理由
翌日1月8日の早朝。外に出ると、空が灰色の煙で覆われていた。
「このあたりは避難警戒区域にはまだ指定されていないけど、いつ避難してもいいように、家の中の写真を撮影しておいた」と近所の女性が言う。
家の中の様子を撮影しておく――というのは、万一火災で自宅が燃えた場合に、火災保険を申請するときに必要な資料を準備しておくことを暗に意味するのだ。つまり、危機はすぐそこに迫っている、ということだ。
「でもまさか、高速道路を超えて炎がこちらにやってくるなんて、信じられないけどね」とその女性は言う。
![【ロサンゼルス山火事ルポ】「もはや戦場だ…」現地在住ジャーナリストがつづる、過去最大の恐怖と一縷の望み](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/3/d/250/img_3d257eec11f75b44c49b571c32f6d4d31358166.jpg)
その時点では、筆者を含め、近所では避難のための荷造りをしている人はまだ少なかった。太陽を黒煙が完全に覆い隠す中、午前11時過ぎには、サンタモニカ市の消防署にジョー・バイデン大統領が到着した。
マシンガンを持った迷彩服姿の兵士たちが大統領の車列を警備しつつずらっと並ぶ中、幼い子どもたちを連れてN95マスクを着用しながら見学していた30代ぐらいの女性がいた。「私の職場、昨日燃えてしまったんだ」と彼女はつぶやいた。
彼女が見せてくれたスマホの画像を見て息を呑んだ。パリセーズの街の中心部にあった4階建てのオフィスビルが、跡形もなく灰になっていた。鉄筋の柱がぐにゃっと曲がって倒れ、原型を留めていない。まるで爆撃されて破壊された戦地の写真のようだ。