第2に、「単年度予算の原則」という行政特有の制約だ。国や自治体は一会計年度の予算をその年度内に執行・完結することを原則としている。財政の健全性確保の観点から望ましいとされているものの、大規模システムの一括開発を想定したもので、リリース後の継続的改善が不可欠なデジタルサービスには、そぐわない面が多い。
第3に、国、都、市区町村が独自にデータを保有し、連携できていないことが挙げられる。
使いやすい海外の行政サービスは、日本と何が違う?
では、なぜ海外主要都市では満足度が高いのか。
辻さんによると、日本と大きく異なる点が2つある。1つは、ユーザー視点でのサービス設計だ。先に挙げた海外主要都市では、簡単で使いやすいことを重視し、ポータルサイトやアプリがユーザー起点で設計されているという。もう1つは、データ基盤の一貫性だ。国が基礎的なデータベースを一元管理し、それを地方自治体が活用してサービスを提供している。つまり、「ユーザー視点に立ったサービス設計」と「データ連携」という2つの要素が、満足度の差になって表れているという。
この状況を変えるため、2023年7月に都の外郭組織として設立されたのが「GovTech東京」だ。都庁職員と民間人材が協働する組織で、2024年11月には、都知事選に出馬したAIエンジニアの安野貴博さんがアドバイザーに就任して話題となった。
外郭組織として設立したのには意味がある。これまで都庁と62の市区町村の関係は、「基礎自治体を広域自治体が支援する」という関係になりがちだった。独立した組織だからこそ、フラットに協働できるという。
GovTech東京のビジョンは、「情報技術で行政の今を変える、首都から未来を変える」。東京で成功事例を作り、全国の自治体にも展開していく考えだ。
サービス改善で、10分以内の申請完了率が7%→70%に
設立から1年、GovTech東京は具体的な成果を上げ始めている。代表例が、東京都の子ども・子育て支援サービス「018(ゼロイチハチ)サポート」の改善だ。改善前は10分以内に申請を完了できるユーザーがわずか7%だったのに対し、改善後は70%にまで上昇した。
DX協働本部長の近藤弘忠さんは、「1番のポイントは、本人認証プロセスを格段に簡単にしたこと」と説明する。マイナンバーとの連携で入力の手間を大幅に削減。さらに、ユーザーからのフィードバックを受け、300以上の細かな改善を重ねたという。
実は近藤さん、ネットサービスの黎明期からITベンチャーを渡り歩き、新しいサービスや価値観を世に浸透させることを得意としてきた人物だ。