勝’s Insight:CDOが企業に定着するために
過去から学ぶべきこととは
私が企業の経営者やデザインのプロフェッショナルの皆さんと対話をしたいと考えたのは、CDOという役割をより広い視野で捉え、新しい視点を学びたいと思ったからだ。その第1回目である田川さんとのディスカッションは、大変実り多いものであった。
多摩美術大学卒業。NECデザイン、ソニー、自身のクリエイティブスタジオにてプロダクトデザインを中心に、コミュニケーション、ブランディングなど、幅広くデザイン活動を行う。国内外デザイン賞受賞多数。デザイン賞審査員も務める。2020年 NEC入社、デザイン本部長として全社デザイン統括を行う。2022年度よりコーポレートエグゼクティブとして、経営企画部門に位置付けられた全社のデザイン、ブランド、コミュニケーション機能を統括。2023年より現職。
この対話を通じて私が意を強くしたのは、「各社のCDOが月末の金曜日に集まって、情報を交換する」という田川さんの具体的なアイデアだった。CDOを世の中に定着させていくには、いろいろな人が知恵や経験を持ち寄ることが必要である。そのような場をつくることがまさに求められているのだと思う。
それは、対談中にあったCTOのこれまでの歩みから得られる教訓でもある。「なぜ役員クラスにエンジニアが必要なのか」というところからスタートし、CTOのコミュニティーをつくり、意見を交換し、定着までの取り組みを進めていった結果、現在は企業にCTOというポジションがあることが当たり前の世の中になっている。
CTOという役割が企業に根付くまでには、リーダーたちの意識を変えていくことはもちろん、仕組み作りも重要だったと思う。折しも、2025年4月に「イノベーションボックス税制」という新しい制度が施行される予定となっている。これは、企業のイノベーションの取り組みの結果生まれた特許権やAI関連プログラムの著作権から得られる所得の30%を控除する画期的な仕組みである。この税制によって、無形資産投資が推進され、その結果生まれたテクノロジーがイノベーションの推進力となり、企業の収益に貢献する構造が強化されることになるだろう。
CTOが日本企業の標準的なポジションになるまでにおよそ20年の時間を要した。その取り組みを手本にできると考えれば、CDOを同様に定着させていく時間はより短縮できるはずである。私たちがまず取り組むべきは、「なぜ役員クラスにデザイナーが必要なのか」という問いに、地道に、誠実に答えていくための協力体制を築くことだと思う。
(第5️回に続く)