採用広告はどこに出すか?

 マーケティングを行う上で大切にしていたことのひとつに、「興ざめさせない」ということがります。
 どういうことでしょうか。あらゆる「興ざめさせない」ためのしくみは本書に書いたのですが、ここではひとつ。
 私が今も覚えているのは、当時の採用活動の方針です。

 開業当時、東京ディズニーランドに最も近い駅は、地下鉄東西線の浦安駅でした。キャストの採用をするのであれば、当然、通勤の便がいいほうがいい。となれば、東西線に中吊りなどで募集広告を打つのが普通のやり方です。

 しかし、私たちは、それをしませんでした。ディズニーのマーケティング担当のカウンターパートである、ノーム・エルダーが許さなかったのです。
「どうして東西線に広告を出そうと思うんだ」

 彼に問われ、私は当然のごとく「キャストの通勤が便利ですから」と答えました。それを聞いた彼は私たちマーケティング担当に言いました。

「人事部に伝えてほしい。お客さまは東西線に乗って、東京ディズニーランドにやって来られる。そのときに、この募集広告を見たらどう思うか。夢を売っている私たちが、自らその夢を壊してどうするか

 頭を殴られたような衝撃がありました。そして、この東京ディズニーランドという場所の優先順位の明確さに深く納得したのです。

 このようにして、採用広告は遠く離れた別の路線で展開されることになり、しばらくはこのスタイルが続いたのでした。ビジネスを展開する上で、何を最も優先するか。それが垣間見えるのではないでしょうか。

「自分たちが行っていることはコンセプトに沿っているか」ということを意識することは、どのようなブランドにおいてもとても大切だと思います。