年齢や美醜まで遠慮なく
「真を描いた」写楽
写楽は女形も画題にしている。
蔦重と写楽はこのモチーフに対し、従来にない大胆なアプローチを試みた。それこそが南畝のいうところの「あまりに真を画かんとて、あらぬさまにかきなせし」に該当する。
ルックスは歌舞伎役者にとって重要なファクターだ。就中(なかんずく)、女形にとって“見た目”は生命線だった。しかも女形は男が異性を演じるというパラドックスを前提にしている。観客は舞台上の“女装の男優”を女とみなして芝居に興じる。中年男が娘役を、醜男が美女を演じる“無理”をも、噛んで含めて納得するのが観劇の共通認識だ。
ところが蔦重と写楽の役者絵プロジェクトは、その大事な“お約束”に踏み込んでいく。
写楽は、女形の化粧と衣装の下には男が隠れていることばかりか、年齢や美醜まで遠慮なく「真を描いた」。写楽の女形絵に美貌や可憐といった要素は稀薄で、その代わりに男が演じているという、芝居ファンなら見て見ぬふりをするところを露骨に押し出している。
人気絶頂の女形の画に
強力な「一服の毒」
蔦重-写楽の役者大首絵プロジェクトでは28枚のうち10枚、のべ10人の女形が描かれている。7枚が単独の大首絵、3枚にふたりの役者を配するという構成だった。役者名は二代目岩井喜代太郎、四代目岩井半四郎、初代中山富三郎、三代目瀬川菊之丞、三代目佐野川市松(2枚/1枚は単独、もう1枚は市川富右衛門と)、二代目瀬川富三郎は2枚で1枚は単独、もう1枚が女形の中村万世と一緒。そして二代目小佐川常世と初代松本米三郎というラインナップだ。
いずれも、ひと目で写楽とわかる筆づかい、強烈な個性が横溢する画風となっている。そこに共通するのはまず眼の表情。男優陣に比べてつぶらで殺伐や緊張、驚嘆、哀愁といった色はかなり控えめになっている。ただ、蔦重-写楽は女形の画に一服の毒を盛ることを忘れなかった。しかも、それは強力なのだ。