ここでも、やはり、いわゆる教育を求めて子どもを幼稚園に転園させた親がいたという。同じ地域に住む子が幼稚園でお稽古ごとを習っているのを知り、3歳児の時に転園していった。そして川上さんは続ける。

「おままごとでも何でも、子どもが夢中になって遊んでいる時、その状況そのものが、集中力が養われているのです。その状況を見守ってあげるうち、子どもの知的好奇心が深まり、探求心につながっていきます。自分で調べる意欲が育ち、誰かに言われなくても自分で判断できるようになる。子どもが遊び込むことが将来、自分の力を発揮する基礎になることに、多くの親が気づいていない。

 そうしたなかで中学受験が煽られ、親は不安になって保育園のうちから何かさせようとしてしまう。その先にあるのは、効率重視で社会のことを考えない大人が増えるだけではないでしょうか。勉強させていい大学を出て、本当にその子の力を育てているのか、立ち止まって考えたほうがいいと思うのです」

 私立の進学校の元高校教師で現在は保育園の経営者が、「幼児期から勉強、勉強と急かされると『決められない子』が育ってしまう」と実感している。

「幼児期から早期教育のなかにいると、子どもは大人の顔色をうかがうようになる傾向があります。『やりたくない』と思うより先に、大人の言う通りにできてしまう子もいます。自我が芽生えるより先に他人からの評価を気にすると、結果、中高生になってから自分の意志で物事を決められなくなる子どもたちが多いと感じます。

 高校教師の時、文化祭で『好きなことをしていいよ』と言っても、生徒は何をしていいか分からないのです。指導しなければ動けない、進路も決められない高校生が多かった。従わせる保育や教育をすると、その子が考える・判断する力を奪っていくのです。大人がおぜん立てするのは子どものためでなく、大人にとってやりやすいからでしかない。管理された早期教育だと、結局、子どものためにならない」