これまでの追加関税の影響を振り返ると、米国の全輸入額に対する米国政府の関税収入の比率(関税コスト)は、2018年前半までは1.5%程度だったのに対し、追加関税措置が実施された2018年後半以降は急上昇し、2019年末から2020年初頭には3.5%を超えた。

 米国の連邦政府機関である米国際貿易委員会(USITC)の報告書によれば、こうしたトランプ前政権時の関税コストの上昇分のほぼ全額を米国企業が負担したとされている。

 その後、関税コストは、2020年から2022年にかけて平均3%強で推移した後、2023年以降は2%台後半へと低下した。

 足元で関税コストが低下した背景には、リショアリング(編集部注:企業が海外に委託していた業務を国内に戻すこと)やフレンドショアリング(編集部注:同盟国や友好国など近しい関係にある国に限定した、製品やサービスの流れのこと)が積極化し、中国からの輸入が減少したこと、つまり米中間のデカップリングの進展が挙げられるだろう。

関税による負のスパイラル?
大幅な景気悪化のおそれも

 仮に、(A)と(B)の両方を避けるために、米国内に生産拠点を移したとしても、前述の移民抑制によって労働供給が増えにくくなっていれば、労働需給が一層逼迫することも想定される。

 また、過去の追加関税措置の際と同様に、中国側も米国からの輸入品に対して追加関税などの対抗措置を取る可能性があり、米企業を取り巻くビジネス環境は大きく悪化するおそれがある。

 そのような状況で米企業が関税などのコスト増を吸収できなければ価格転嫁を進めざるを得なくなり、コストプッシュ・インフレが懸念されることになるだろう。

 足元はインフレや景気が緩やかに減速したことで、FRBによる利下げが開始され、米国経済はソフトランディングに向かっているが、トランプ・リスクが発現すれば、インフレは再加速し、景気も大幅に悪化するというハードランディング・シナリオが現実味を帯びてくる。