
人生は、選択の連続。それはさながら、常にY字路が現れる道程のよう。だからこそわれわれは、現実の道でY字路にでくわすと、心がざわめきだすのかもしれない。Y字路の発生要因と条件、系統と型を “Y字路専門家”が解説する。※本稿は、重永 瞬『Y字路はなぜ生まれるのか?』(晶文社)の一部を抜粋・編集したものです。
人の習性っておもしろい!
人々が歩いた末にできるY字路
Y字路はどのようにして生まれるのだろうか。原初的な道であるけもの道は山野に行かないと見れないが、都市でもY字路の発生は観察することができる。
写真1は、京都市にある京都御苑のなかの砂利道である。ここの砂利道は自転車では通りづらいため、人びとはできる限り前の人が通ったのと同じルートを通ろうとする。その結果、砂利のなかに轍ができる。京都御苑は広いため、この轍はところどころで分岐し、思い思いの目的地に向かって伸びていく。Y字路の形成である。
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はじめにできる轍は1本だが、1本では正面からも自転車が来たときにぶつかってしまう。その際、どちらか片方が道を譲ることになる。この微妙なズレが蓄積されると、轍は蛇行し、あるいは分岐する。こうした人々のささいなふるまいがY字路を生むのである。
もう1つの例を紹介しよう。写真2は、京都市内にあるとある神社の雪景色である。雪によって、人びとの動線が可視化されている。右の道よりも、左の道のほうが多くの人が歩いていることがわかる。
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おもしろいのは、ここはもともと2つの道が直角に交わるT字路だったのが、足跡によってできた道は鋭角なY字路になっていることだ。人びとが最短経路をたどろうとすると、自然とその軌跡は鋭角になる。人の足取りは鋭角なのである。
地図とともに考える
「Y字路はどう形成されたのか」
Y字路とは鋭角な分かれ道である。どんなときに交差点は鋭角になるのか。Y字路の形成過程を考えるには、路上からの視点よりもむしろ、地図の視点が有用である。ここでは、地図を使いながら「Y字路はなぜ生まれるのか」について考察する。
まず、「道」がどのようにできるかを考えたい。道路の最も根源的な機能は、目的地へのアクセスルートとしての機能である。目的地が異なれば、当然ながら道路が伸びる向きも異なる。それによって生まれるY字路を「街道系Y字路」と名づけよう。
目的地へのアクセスを考えるならば、道路は基本的に直線が望ましい。しかし、実際は必ずしもそうはいかない。地面には起伏があり、あまりにも勾配が激しいと、上ることができなくなる。徒歩であれば階段という手もあるが、自動車の場合はより強く勾配の制約を受ける。こうした地形的要因によってできるのが、「地形系Y字路」である。