保険大激変 損保の構造的課題が生保にも飛び火!#12Photo by Akio Fujita

旧ビッグモーターによる保険金の不正請求事案の発覚により、大規模代理店に対する損害保険会社の監督や指導に不備があることが発覚した。そこで日本損害保険協会では、中立的な第三者評価制度を創設し、保険会社の監督や指導が困難な“モンスター代理店”への評価運営を行おうとしている。特集『保険大激変』の#12では、損保協会のキーマンである大知久一専務理事に意気込みを聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)

損保協会に「第三者評価制度」を創設
大規模代理店を中心に業務品質評価へ

 旧ビッグモーター(現WECARS〈ウィーカーズ〉)による保険金不正請求事案を皮切りに、中古車販売など保険販売とは別に本業を持つ保険代理店、いわゆる兼業代理店の問題点がにわかに取り沙汰されるようになった。

 保険をたくさん販売してくれる大規模代理店であるが故に、損害保険会社は営業上の関係悪化を恐れて適切な監督や指導ができていなかった。それどころか、修理工場を併設していることから、損保会社が事故車を積極的に誘導するような便宜供与を行ったり、損害査定を簡略化することで不正な修理費の請求を見逃したりしていたことが発覚した。

 それを受けて、金融庁は2025年1月24日に、トヨタ自動車の直営販売会社であるトヨタモビリティ東京(TMT)と中古車販売大手のグッドスピード(GS)の兼業代理店2社に対し、保険業法に基づく業務改善命令を出した。

 公表された処分の理由は辛辣だった。TMTに対しては、「『保険事業に関しては本業ではない』との意識が根底にあり、保険業法等に精通した人材の配置や育成を行っていないだけでなく、保険募集人の教育や管理、モニタリングを行っていない。また、個人情報に関するガイドラインの存在すら認知していない」というものだった。

 片やGSについては、「営業偏重および事業収益の拡大を志向する企業風土により、経営管理体制に深刻な問題が生じており、保険募集における体制整備を怠っていた」と指摘している。

 行政処分が下された後、GSは保険会社が求めてきた社外調査委員会の設置に、ようやく重い腰を上げた。ビッグモーター事案などをきっかけに設置された有識者会議と金融審議会では、保険会社による監督や指導の不備に加え、大規模代理店と保険会社の力関係が逆転していることが指摘されたが、まさにそれを裏付ける形となった。

 こうした実態が明らかとなったことで、保険業法や監督指針など業界ルールの大改正が検討されている。本特集の#4『保険会社&乗り合い代理店社員必読!業務が大激変する法改正とルールの中身【論点一覧表付き】』で示した通り、一定規模以上の代理店に「上乗せ規制」を課し、また自動車修理工場などを営む兼業代理店を「兼業特定保険募集人」として保険業法に明記する方向だ。

 ちなみに、この一定規模以上の代理店の基準については、金融審議会で「手数料収入を基準とする」とされたが、「中規模代理店に問題があるケースが多い」との業界の声を受けて、所属する募集人数を基準に組み込む案も浮上しているという。

 もっとも業界ルールを変えたとしても、力関係が逆転している状態で、保険会社が大規模代理店に対してどこまで監督や指導を行えるかは未知数。そこで、主に大規模代理店に対して業務品質の評価を行う、中立的な第三者評価制度の検討が日本損害保険協会で進められている。おおむね骨子は出来上がっており、その仕組みを示したものが下図だ。

 では、この第三者評価制度は、どの程度実効性がありそうなのか。次ページでは、「今回の不祥事案を機に業界を変えなければならない。第三者評価制度に本気で取り組んでいる」と強い意気込みを見せる、損保協会のキーマンである大知久一専務理事に話を聞いた。