今後の米中AI戦争の行方とその影響
今後、米中のAI開発戦争は一段と先鋭化するだろう。中国は習近平体制を維持するためにも、管理ツールとしてのAIの重要性が高まると予想される。実際、中国では画像認証モデルの開発に取り組む企業が多い。監視カメラ網の性能向上を通した公安・治安の向上を意図しているだろう。
ただ、中国企業のAIの性能向上には、先端チップの国産化が必須である。1月、中国政府は、半導体製造装置の育成を目的に7兆円規模の産業育成ファンドを新たに設立した。半導体メーカー、製造装置業界の成長を急ぐ考えは従来に増して強いとみられる。
中国のAI関連産業には、海外マネーも流れ込んでいる。産油国であるサウジアラビアが、アリババやセンスタイム、智譜AIに資金を投じているという。それと引き換えにサウジは、投資先の中国企業に技術移転を要求し、経済の脱石油、デジタル化に利用する意図がありそうだ。
中国が、「一帯一路」の参加国にAIアプリを提供し、政府や個人のデータを取り込んで国際世論への影響力を強めることも想定される。AI開発の強化に、中国企業による海外のソフトウエア、半導体の不正入手も増加するだろう。中国のAI開発は、覇権国としての米国の地位を脅かすことも考えられる。
トランプ政権は、対中AI・半導体規制の強化にとどまらず、エヌビディアやAMDの対中事業を制限する可能性がある。中国の特定の企業を対象に、米国企業との取引全面禁止や金融制裁を発動する恐れもある。
1期目のトランプ政権は、民主党議員が提出した「香港自治法」を成立させた。香港の自治侵害に関与した人物、それら人物と取引する金融機関に制裁を加えることを可能にするものだ。
現在の米国では、TikTokやディープシークのアプリが「データ主権を脅かす」という考えが増加している。トランプ政権が中国のAI企業に経済・金融制裁を発動するリスクは上昇傾向にある。
本来、AI開発の加速は、世界経済の成長を加速する要因になるはずだ。米国が他国と連携して中国AIの安全性向上に取り組めば、そうした効果を期待することができるかもしれない。
しかし、トランプ大統領が米国ファーストを貫き、「関税」を武器に、同盟国に対中制裁に参画するよう強要する可能性は高いだろう。米中AI戦争の本格化は、当面、世界経済の下方リスクを高める要因になると考える。