【LA水原一平裁判ルポ】「彼は深く深く深く後悔している」。水原弁護の“形容詞戦略”が逆効果になったワケカリフォルニア州サンタアナの連邦裁判所 撮影:長野美穂

水原被告が今回だけ
裁判官の「呼び方」を変えた理由

 これまでの公判で水原被告はホルコム判事の質問に対し、全て「Yes, Sir」か「No, Sir」で答えていた。だが、今回は呼び方を変えてきた。

 アメリカの裁判所では裁判官に対しては「Your Honor」と敬意を持って呼びかけるのがお約束で「イエス・サー」と答える人は誰もいない。

 アメリカで教育を受け、通訳だった水原被告がそれを知らないはずはない。だから、これまでの彼の公判での「サー」呼びに筆者は毎回違和感を覚えていた。

 だが、さすがに今回は量刑が出るとあって、判事の心証を少しでも良くしたいと思い、呼び方を変えたのだろうか。それともフリードマン弁護士にアドバイスされたのか?

 もしそうだとしたら、なぜフリードマン氏はこれまでの公判では水原被告の「Sir」呼びを放置していたのか、そこが謎だった。

 次にフリードマン弁護士が起立し、検察側が要求する禁固57ヵ月の量刑に対し、その半分以下の「禁固18か月の量刑が妥当である」と主張した。

 その際にフリードマン氏が使ったのが「Genuine(真摯な)」という形容詞だった。

「ミスター水原は、自分がやってしまったことを心から真摯に反省している」

 さらに「Deeply」という副詞を3回続けて使い「彼は深く深く深く後悔している」とも説明した。

 また「ミスター水原はギャンブル依存症にずっと苦しんでいた」と語り、専門医による鑑定書も裁判所に提出済みであることを説明した。

 だが、検察側は、カリフォルニア内の30以上のカジノを調査した上で「水原氏が10代の若い頃からギャンブル依存症だったという証拠は見当たらなかった」と結論付けた。

 それに対しフリードマン弁護氏は「Trivial(取るに足らない些細なことだ)」という言葉で反論した。

 あくまでフリードマン弁護士は、水原被告は「ギャンブル依存症」に深く蝕まれ、心身共に切羽詰まっていたのだと強調した。

 さらに、彼は水原被告が球場などの仕事場で常に日米の多数の報道陣から多大な注目を浴びていたことも、彼のギャンブル依存症を加速した要素だーーと述べた。

 つまり大谷翔平選手という超有名人のために昼夜働き、常に報道陣に囲まれている状態は、通常のストレスレベルを遙かに超えるものだった、という主張だった。

 それを表現するのにフリードマン氏は「Unique」(特殊な)という形容詞を使用。

 さらに、違法賭博の元締めであるマシュー・ボウヤー被告が「賭博の金銭の上限を設定せずに、際限なくツケで彼に賭けさせた」ことも「Unique factor」(普通ではない要素)だと断言し、それら全てが引き金となり、天文学的な額の違法ギャンブル負債を負うことになったのだと結論づけた。

「Uniqueなケースであることを考慮してほしい」と何度も語った。