では、なぜ農水省は廃止になった今も「減反」に執着し続けるのかというと、「生産調整をすることで米価を安定させて米農家を守るため」だという。しかし、一部の専門家やジャーナリストたちはこれはあくまで建前に過ぎず、実際は「JAの利益を守るため」だと指摘している。

 減反が進んで「米不足のムード」が定着すれば当然、売り手市場になる。では、売り手は誰かというと、米農家ではない。

 日本の農家は海外のように大規模化も進んでいないので、個人の零細農家ばかりだ。そこでJAが「概算金」を払って農家から米を引き取り、卸売業者と取引をする。しかも、減反が進めば兼業農家や「土地売却農家」が増えるので、それらの預金がすべてJAバンクに入る。

 つまり、減反政策で一番潤うのは、実は農家でも国民でもなく、JAだというのである。

 実際、令和6年産米の相対取引価格(JA全農などと卸売業者との間の取引価格)は2万4665円(12月速報値)。一方、令和4年産の相対取引価格は1万3920円なので1万円以上も上がっている。

 もちろん、農家に払われる「概算金」も上がっているが、ほとんどは大規模農業ビジネスをしているわけではなく、個人農家でもともと赤字。物価高騰で肥料や燃料も上がっているので、大した恩恵はない。しかし、JAは「中間マージン」で扱う量も膨大なので、相対取引価格が高騰すればするほどうまみも大きい。

 もちろん、これにはいろんな意見があるだろう。ただ、どういう理屈をつけようとも、食料自給率38%という異常事態にもかかわらず、我々の血税をつっこんで米の生産を絞ろうという「減反政策」は異常だと言わざるを得ない。

 世界では、食糧をたくさん生産して国内の需要が十分に賄えるようになってから、「あまったら海外に売る」が常識だからだ。

 わかりやすいのは、インドだ。

 ご存じのようにかの国は14億もの人々がいる。それだけいれば、食糧確保が大変だと思うだろうが、食糧自給率は100%。それを支えているのが「米」だ。農水省の資料によれば、インドの米生産量は中国に迫る勢いで、23〜24年で1億3400万トンである。ただ、消費に関しては1億1500万トンという感じで、供給量がかなり上回っている。