これからの営業に求められているのは、単なる商品やサービスの販売にとどまりません。流通パートナーとの戦略的な協働や、お客様の価値創造、共感を生み出す取り組みこそが求められているのです。そのためには、個々の営業のスキルやマインド、流通の仕組みや取引制度、営業組織を変えていくことが必要になります。
では、いかにして変えていくか? そのために必要な考え方やノウハウがまとめられた『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)から抜粋してみました。

経営幹部へアプローチする「VITOセリング」とは?
得意先との商談において、企業対企業の大きな協働プロジェクトなど、大型案件を提案する場合、「経営幹部」が意思決定者だけでなく、場合によってはアドバイザー、遂行者になることがあります。
大型案件のみならず、得意先の味方という点で、最大のパワフルな存在は、「経営幹部」であることは間違いないでしょう。
トップマネジメントといい関係を築くことで、企業の方針に直接影響を与えることができ、長期的な戦略的アライメントを取りやすくなります。また提案したプランの意思決定のスピードと実行の効率が向上します。
ウォールストリート・ジャーナルの記者だったベストセラー作家、トニー・パリネロは、この「経営幹部」のことを略して「VITO」と呼称し、著書に記載して大きな話題になりました。
その「VITO」に対するアプローチが「VITOセリング」です。大手顧客の「VITO」に直接面談し、彼らのニーズや課題に応える価値提案を行い、長期的なパートナーシップを育む活動を推奨しています。
P&Gでは、1990年代終盤から部長クラスの営業のチームリーダーがこの「VITOセリング」の責任を担うようになりました。
自社と得意先の経営陣が参加するトップ会議や、研究施設・工場への視察ツアー、懇親会などをバイヤーやバイヤーの上司と連携して企画、両企業の関係構築のコーディネーションを行っていました。
自分の上司や経営陣のサポートがなくても、得意先の経営陣に会いに行き、得意先との協働ビジネスプランを推進することも営業部長クラスの重要なミッションでした。
私はコンサルタントとしてこの「VITOセリング」を、クライアント企業や知人が経営陣のメーカーの営業部門に説明し、推奨しています。しかし、一朝一夕には「VITOセリング」は成立しません。おおむね取引先の商品部のバイヤーや部長クラスからは、消極的な反応をされることになりました。「権威の影響力」を認識し、自分たちの上司に直接アプローチすることは必ずしも好ましくないという態度だと思います。
しかし、バイヤーは新しい売り方へ興味や関心を持ちつつも、一方でリスクを抑えたいという動機が常にあります。経営幹部からの承認や支援、専門的知見を持つ人物や情報源から情報やアドバイスを得ることは、彼らにより安心して決定を下すことにつながり、取引の成立に至る可能性を高めるのです。
また、メーカーと小売業のトップ同士の協働関係はバイヤーの好意的な態度・行動変容を促し、活動を推進する追い風となります。
実際には独自のルートを築いて、私は山登りをするように少しずつ「VITO」に近づいていくことが有効だと気づいていきました。といっても、バイヤーやバイヤーの上司をないがしろにすると後々、困ることになります。
彼らはサプライヤーたるメーカーに対する自分たちの影響力の低下や、自分たちの知らないことがトップ面談で話し合われることを懸念していたのです。
そこで、トップとの会談のアジェンダを事前に共有したり、トップとの会談で何を話し合ったのかを後で報告したり、あるいはトップ会談に同席してもらったりしたこともあります。時にはバイヤーの功績を得意先幹部の前で具体的に称え、感謝しました。彼らとの信頼関係が悪化しないよう、十分な配慮が必要です。
多くの総合商社では、営業課長・部長クラスが単独で得意先の社長に会いに行き、商談をまとめてくることがごく当たり前になっていると聞きます。メーカーの営業も、同じ気概を持ってこの重要な「VITOセリング」に挑むべきだと思っています。
※本記事は『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)からの抜粋です。