これからの営業に求められているのは、単なる商品やサービスの販売にとどまりません。流通パートナーとの戦略的な協働や、お客様の価値創造、共感を生み出す取り組みこそが求められているのです。そのためには、個々の営業のスキルやマインド、流通の仕組みや取引制度、営業組織を変えていくことが必要になります。
では、いかにして変えていくか? そのために必要な考え方やノウハウがまとめられた『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)から抜粋してみました。

できる営業マンは常に「2つのゴール」を持っているPhoto: Adobe Stock

その商談に「落としどころ」はあるのか?

 営業の交渉術については、さまざまなテクニックが語られている書籍が少なくありません。もちろん、テクニックにも価値はあると思いますが、それ以上に大事なことは、本質をしっかりとつかんでおく、ということだと思っています。営業の仕事とは、相手があってこそ、成り立つものだからです。

 まず大事なことは、商談の落としどころを定めておくことです。新人営業マンの頃、いつも自問自答していました。

「今日の商談は何点だったろう?」
「何が当初の狙い通りうまくいって、何がだめだったのだろう?」

 そんな折、得意先との商談後にたまたま立ち寄った大阪・梅田の紀伊國屋書店で『新ハーバード流交渉術』(ロジャー・フィッシャー)という本に巡り合いました。読んでみると、まさに目から鱗が落ちたような感覚になり、その本から得た教訓を即、実践に移すことにしました。

 書かれていたのが、商談の落としどころ「BATNA(バトナ)」でした。「Best Alternative to a Negotiated Agreement」の略で、「交渉が成立しない場合の最善の策」という意味です。わかりやすく言えば、交渉が決裂した場合に備えて、最も有利な代替案を持っておく、ということです。

 万が一、もともと目標としているモノが売れなかったり、数字通りにいかなかったりしても、2段目の目標が達成できればいい。それでOKだ、というのです。

 考えてみれば、商談が成功したか、成功しなかったかは、もともとゴールがあって判断できるものです。となれば、ゴールをどう設定するか、が重要になる。通常は、売れたか売れなかったか、目標としていた数字を得られたか得られなかったか、をゴールにしますが、そこにちょっと階段をつけるのです。

 例えば、100のボリュームは売れなかったけれど、最低限80のボリュームを売っておけば、商談は成立すると決めておく。相手のバイヤーには言いませんが、最初から二段構えの目標を持って商談をするのです。

 なぜ2つのゴールを持つことが有効なのか。誰でもそうですが、ゴールが1つだと、「この商談はどうやら思うようにいかないぞ」と感じたら顔に出てしまうのです。そして、「いやいや、そこをなんとか」「そうじゃないんです」などとバイヤーを無理やり説得しようとしてしまう。しかし、こんなふうになればなるほど、商談はこじれていきます。むしろ、ゴールから遠のいていきかねない。

 2つ目のゴールがあれば、バイヤーから何かを提示されても「ああ、そういうことなんですね」とどんと構えて、2つ目のゴールを取るための交渉をすればいい。2つのゴールを持つことで、交渉の引き出しの幅が出てくるのです。

 そして、2つ目のゴールを死守するために、事前にいろんな策を考えることになります。バイヤーがこんな要求をしてきたら、こんな価値を提供しよう、といった作戦を考えるようになる。これが、商談の成功確率を間違いなく高めるのです。

 実際、「BATNA」を知ってから、私は商談が得意だと思えるようになりました。何より、精神的に安心する。会社に戻っても、「成果はゼロでした」ではなく、「目標通りにはいきませんでしたが、8割は取れました」などと言えました。

 それこそだんだん、商談がゲームのようになっていきました。「今日も勝つぞ」「今日はどのくらい勝てるかな」「どうやって今日は攻めようか」など、ゲーム感覚で、まるでシミュレーションゲームをするかのように、楽しめるようになったのです。

※本記事は『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)からの抜粋です。