これからの営業に求められているのは、単なる商品やサービスの販売にとどまりません。流通パートナーとの戦略的な協働や、お客様の価値創造、共感を生み出す取り組みこそが求められているのです。そのためには、個々の営業のスキルやマインド、流通の仕組みや取引制度、営業組織を変えていくことが必要になります。では、いかにして変えていくか? そのために必要な考え方やノウハウがまとめられた『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)から抜粋してみました。

顧客の心をつかんだP&Gの「伝説的商談」とは?Photo: Adobe Stock

大成功した「ウィスパー」のデモ

「説得的販売話法」の実践として、P&G時代に忘れられない商品があります。先にも少し紹介した生理用ナプキンの「ウィスパー」です。

 これまで数十種類の新製品の商談に携わってきましたが、入社2年目に発売になった「ウィスパー」ほど、バイヤーの心を動かした説得的な商談を経験したことはありません。折しも「説得的販売話法」のトレーニングが始まった頃で、それを実践する商材でもありました。

 生理用品市場は当時、まったくイノベーションが生まれておらず、停滞していました。消費者が最も悩んでいたのは、経血の多い日の逆流で下着が汚れてしまったりすることでした。

 そうした悩みを解消する商品がなかったという「状況要約」から商談は始まり、まさに5つのステップで進んでいきました。そしてこのフォーマットを作り上げたのが、「営業企画」のセクションでした。

 P&Gは生理用ナプキン市場では後発組でした。しかし、独自構造のシート表面の吸収テクノロジーによる圧倒的な吸収力の高さ、その後、発売された羽付きの横漏れ防止機能などの特徴が市場で大きな支持を得ることになります。

 新製品発表会では、研究開発スタッフが、この革新的な製品の特徴を説明し、人工経血を用いて、他社製品との性能比較のデモンストレーションを行いました。

「ウィスパー」と他社製品を一緒に並べ、透明の筒に人工経血を注ぎ、吸収スピードの違いを確認。次に、そのナプキンを傾けて人工経血が流れ落ちないことを明らかにし、最後に透明なプラスチックの分厚い板の上に載せ、そこに体重をかけ、経血が逆流しないことを見せる、というデモでした。

 このデモは、営業スタッフを感動させることになりました。全員がこの革新的な製品を売る自信とモチベーションを得た瞬間でした。

 営業マン2年目だった私は、バイヤー向けの商談準備を行っていきました。帰宅後、さっそく新製品発表会で学んだ情報を整理しました。

●生理用品市場の状況(市場規模・成長ポテンシャル)
●製品開発の背景(消費者ニーズ・課題)
●製品機能(吸収力・逆漏れなし)
●消費者のメリット(安心・快適)
●販売プラン(店舗での価格・棚割り・山積み展開案)
●得意先の利点(粗利益改善・新規のお客様獲得)
●ネクストステップ

 これらをまとめ、職場で人工経血を使って、実演の練習をしました。その実験キットは、当時、営業マンだった私が憧れていたブランド「サムソナイト」のアタッシュケースに入れられていました。

 こうして、バイヤーの目の前でプロフェッショナルな実演を行うことになりましたが、すべての顧客企業のバイヤーがユニークな商品機能に興味を示し、どの店頭も生理用品売り場は「ウィスパー」一色に染め上がるほどに露出されたことを鮮明に覚えています。

 山積み展開では、サンプルを必ず置いてもらうようにしました。バイヤーにとっての大きな利点は、値引きせずに売れたことです。そうすれば当然、利益率は高まります。

 特売商品なのに、定価で売られているというのは、当時としては大きなチャレンジでした。しかし、よく売れました。

 そして営業は、この「ウィスパー」の商談を通じて、「説得的販売話法」の有効性をリアルな体験を通して実感し、営業力の底上げにつなげていきました。

※本記事は『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)からの抜粋です。