ネスレPhoto:Justin Sullivan/gettyimages

今回は筆者の新刊『会計指標の比較図鑑』にも収録している、ネスレと味の素の決算書の解説をお届けする。グローバルでビジネスを展開する食品メーカーの2社だが、売上高・営業利益ともに、ネスレが味の素に10倍以上の差をつけている。それぞれの決算書にはどんな特徴があるのか。比較して読み解いていこう。(中京大学国際学部・同大学院人文社会科学研究科教授 矢部謙介)

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増収減益の味の素と
減収増益のネスレにある「大きな違い」とは?

 今回は、グローバルな食品メーカーである味の素とネスレの決算書を取り上げて解説しよう。

 味の素はアミノ酸における世界のトップメーカーであり、「味の素」に代表される調味料や加工食品や冷凍食品、ヘルスケア事業などを手掛けている。2024年3月期連結決算では、売上高が約1兆4390億円、営業利益は約1470億円と前期比増収減益となった。

 ネスレはスイスに本社を置く世界最大の食品メーカーである。事業領域はキットカットなどの菓子・食品、ネスカフェブランドなどで展開する飲料、ピュリナなどのペットフード事業から、ベビーフードや冷凍食品まで多岐にわたる。23年12月期連結決算では、売上高(その他の収益を含む)が約933億5100万スイスフラン(1スイスフラン〔以下CHF〕168円換算で約15兆6830億円)、営業利益が約140億6300万CHF(同約2兆3630億円)で前期比減収増益だった。

 日本の食品メーカーとしてはトップクラスの味の素だが、グローバルトップメーカーであるネスレと比較すると売上高では10倍以上、営業利益では15倍以上の開きがある。まさに、味の素とネスレとは桁違いの規模の差があるといえる。

 しかしながら、両社の違いはその規模の差だけではない。今回は、味の素とネスレの決算書に加え、企業の効率性を測る指標である回転期間とCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を取り上げて、両社の経営上の特徴、そして味の素が抱える経営課題を解説していくことにしよう。