例えば、人間は、大阪万博で食事をしなかったとしても、どこかで食事をする。大阪万博があるから食事の回数を増やすことはないだろう。であるならば、本来、経済効果として算出すべきは、「大阪万博へ行って気分が盛り上がったから、余計に豪華な食事をしてしまったな」というケースにおける、通常の支出と万博での支出の差額でしかないはずだ。

 このようなケースは他にも考えられて、例えば、神戸に住んでいる人が、沖縄旅行を取りやめて大阪万博へ行くとなれば、支出額は相当減るだろう。これは日本全体で考えると経済効果において「マイナス」と勘定しなくてはいけないのだが、大阪万博に限った試算では「プラス」として計上されている。

 今回、この大阪万博の経済効果を算出したアジア太平洋研究所の稲田義久研究統括は、能登半島地震の復興に全力を傾けるべきという観点からも万博の延期や中止を求める声が上がっていることについて、「産経新聞」(1月28日)の記事で次のように述べている。

「被災地で急がれるインフラ復旧作業は土木工事であり、万博会場では新築の建設工事が行われている」

「(被災地で)本格的に住宅の復旧が期待される時期と万博の建設工事時期は重ならないと考えられる」

「新型コロナウイルス禍以降の訪日外国人客の関心は地方に向いている。万博会場外に足を運ぶ『拡張万博』の取り組みとして、北陸への周遊を盛り込んでもよいのではないか。求められていることは万博の延期や中止でなく、(復興という)課題に日本がどう対応していくかだろう」

 何としてでも万博を実施したい考えがにじみ出ている人物が研究統括を務める組織が経済効果を測定して、まともな試算になるのかどうかは、きちんと精査せねばならない。何より、前出の『大阪万博の経済効果、本当は「大幅なマイナス」繰り返される過大評価の罪深さ』の記事で触れたように、アジア太平洋研究所の会員には大阪万博のスポンサー企業が数多く名を連ねている。経済効果を算出するのにふさわしい組織なのか、あらためて疑問を呈しておきたい。