努力や学習を継続できる人、
できない人の差とは?

 ライセンシング効果を考える時、次の3つの人には油断や怠慢の罠が待っています。

(1)成果を上げてきた人
(2)努力をしてきた人
(3)ある程度の地位を得た人

 これまで達成してきたこと、努力してきた自分に焦点を当て、その部分に視点が集まりがちになると、人は「自分を甘やかす、少しぐらい怠ける権利がある」と錯覚する。結果として何かの不祥事をおこしてしまう、研鑽不足に陥り脱落してしまう。

 ライセンシング効果の罠を、無意識にでも見抜いている優秀な人は、過去の栄光に焦点を当てることを意図的に避ける傾向があるようです。

 2012年にiPS細胞でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授は、今後の研究に集中するため、一定期間講演活動をされないことを発表しています。

 アメリカ大リーグで活躍するイチロー選手は、自らが樹立してきた偉大な記録に無関心なそぶりを見せることがよく報道されていますが、意識を集中する対象を「過去の実績」以外のものにすることで、現役の選手として油断や慢心を避けているのでしょう。

 ビジネスマン、経営者として学びが止まってしまう人と、学び続けることができる人の差も、このライセンシング効果にあるのかもしれません。

 どれほど優秀な人でも、どれほど過去努力した人でも、あるいは現在高い地位にある人でも、「自らの成果や輝かしい過去」ばかりを思い出していれば、学びは止まり、精神の進歩が怠惰や油断に変わってしまいます。

 理念経営や社是・社訓がある意味で古風でありながら、廃れることなく現在でも引き継ぐ企業が少なくない理由は、その事業を始めた「理由」を忘れてしまうと、人も集団も真摯な努力を長期間にわたり継続できない心理的圧力が働くからなのでしょう。