
Live2Dあるいは3DCGのキャラクターを通して、動画配信やライブ配信を行うバーチャルYouTuber、通称VTuber(ブイチューバー)。若年層を中心に人気を集め、矢野経済研究所の調査では、日本国内での市場規模が520億円(2022年度)を突破したという。VTuberに関する記事を多く執筆する草野 虹氏によると、彼、彼女たちの魅力は「ネタ(活動)」の奥に垣間見える「ベタ(本人性)」にあるという。視聴者たちが、VTuberに魅了される理由とはーー。※本稿は、岡本 健・山野弘樹・吉川 慧編著『VTuber学』(岩波書店)のうち、草野 虹による執筆パートの一部を抜粋・編集したものです。
VTuberは神秘性を
保つのが難しい!?
VTuberの複雑な魅力の背景には、人々の人気を集める存在、すなわちスターを産み出すエンターテイメントのシステム変化がある。
かつて音楽におけるスターは映画でもスターとして活躍することが多く、フランク・シナトラやビング・クロスビー、エルヴィス・プレスリーといった存在が輝きを放っていた。
彼らが歌うポップミュージック、その後に追随した楽曲の内容には、フィクションが多く含まれているものが多かった。とはいえ、その中に表現される感情の動きは、強いリアリティを持って聞くものの心を動かし、それは欧米圏を超え、アジアの国々にまでヒットが波及することもあった。
音楽で描かれる様々なフィクションから、リアリティ性のあるメッセージをリスナーが引き取っていく。これはまさにVTuberの楽しみ方と類似の構造であろう。
その一方で大きく異なるのは、かつて音楽や映画シーンを彩ったスターが比較的神秘性を保ち続けたままでいられたのに対して、VTuberは神秘性を保つのがかなり難しい点にある。
神秘性よりも本人性の公開を
求められるVTuberたち
1950年代~60年代のスターは、映画・テレビ・雑誌などで情報を発信する一方で、生身の人間としてのプライベートの情報を出さないことにより強い神秘性を維持していた。