協力体制を破壊する
“フリーライダー”とは?

 協力的な体制は崩壊しやすく、場合によっては破壊的な暴力のサイクルに陥る傾向がある事実は、これまで何度も実証されてきた。行動経済学の実験を通じて、人は互いに協力することには基本的に前向きなのではあるが、ほとんどの場合でその前向きさが「フリーライダー」、つまり対価や代償を支払わずに利益を得る便乗者によって悪用され、その結果、公共のための個人の貢献度は急激に減り、最後にはほぼゼロになることが確認されている。

 人間の協力行動を正確に研究するには、テーマを科学的な枠組みに落とし込む必要がある。たとえば、意思決定状況における集団行動問題をモデル化する「公共財ゲーム」では、4人か5人のプレーヤーに一定の初期財産が与えられる。

 プレーヤーはそれを自分のものとして保持するか、それとも全員のために寄付するかを選ぶ(注6)。ラウンドごとに寄付で集まった金額が数倍(通常は2倍)に増やされ、それがプレーヤーに同額ずつ、つまり各自の寄付金額に関係なく平等に還元される。

 ここでは自分では寄付をせずに配当に便乗するフリーライダー、つまり「離反」が支配的な戦略になることは、説明するまでもないだろう。誰もが他人の貢献から恩恵を受け、各ラウンドで寄付をせずに取り分を手に入れることが可能だ。

 その効果はラウンドを繰り返すごとに増幅される。また、ラウンド数は前もってプレーヤーに知らされている。そのため、最終ラウンドの最適解から、各ラウンドにとって最善の戦略を逆算できる。

 たとえば、10ラウンド行われることがわかっている場合、当然ながら、最終の第10ラウンドにおける自身の行動が第11ラウンドの結果に影響することはない(第11ラウンドなど存在しないのだから)。そのため最終ラウンドでは、参加者は非協力的になると予想できる。

 したがって、第9ラウンドが実質上の最終ラウンドとなり、ここでも非協力的な態度が予想できるため、結果としてゲームそのものが崩壊し、最初のラウンドですでに非協力的な決断をすることの魅力が否応なく高まる。

注6 Fehr, E. & Gächter, S. (2000). Cooperation and pun-ishment in public goods experiments. American Economic Review, 90(4), 980?994