東京科学大(旧・東工大)が「両親が大卒でない高校生」に奨学金を出す理由写真:朝日新聞社/時事通信フォト

お茶とクッキーを片手に異なる専門分野の研究者が語り合う習慣が、海外の大学や研究機関にはあるという。一方、日本の大学は細分化が進み、人間関係が狭まっている現状があるとノーベル賞受賞者の大隅良典教授は語る。大隅氏が考える日本の教育制度のあり方とは。※本稿は、大隅良典・永田和宏『基礎研究者 真理を探究する生き方』(角川新書)のうち、大隅良典による執筆パートの一部を抜粋・編集したものです。

変わり者が混じることで
いいブレンドウイスキーができる

 科学者に必要な要素はなんだろうか。科学の世界では、平均点は大きな意味を持たない。科学者は日本の学校教育が目指してきたようないわゆる成績優秀なエリートが集まればいいわけではない。私は、科学者はある意味で変わり者でいいのだと思っている。

 少し前に朝日新聞のコラムで鷲田清一氏が、サントリーのチーフブレンダーを長年つとめてこられた輿水精一氏の言葉を紹介している記事が目についた(2020年12月13日)。

「ちょっと変わったヤツが必要なんですよ。優等生ばかりを集めていてもいい酒になりません」

 ブレンドウイスキーはいろいろな原酒を混ぜて造る。そのとき「欠点のない」原酒ばかり集めて造っても「線が細い」ものにしかならないが、変わり者が混じることで初めて、ハッとするいいお酒ができるというのだ。研究者の世界と同じだと思わず頷いてしまった。

 歴史的にみても優れた研究者の周りには多くの場合、優れた仲間がいたと聞く。これこそ陸の孤島に住んで自由な時間がたくさんあるからといって、1人で科学が成り立つわけではない理由だと私は思っている。研究活動では周りの優れた環境が大きな意味を持っている。単に研究設備や建物が整えばいい研究が進むわけではない。

 研究者の集団には様々な人がいて、それぞれが役割を持っている。直感的に物事を捉えることに長けた人、論理的に考えることなしには前に進めない人、実験をすることがなによりも好きな人、実験を何度も繰り返さないと答えが出せない人、不思議と1回で見事な結果を出す人、たくさんの論文を正確に読みこなす生き字引のような人、議論好きでいろいろな疑問を発する人、的確な疑問、質問を投げかける人などなど、それぞれ得意なものと個性がある。

両親が大卒でない高校生に
大学進学の機会を増やす試み

 では、日本の大学の現状はどうだろうか。