日本企業の弱点
「スケールアップ」を克服する

 著書『資本主義の先を予言した 史上最高の経済学者 シュンペーター』(日経BP)の中でも、イノベーションとはゼロからの創造ではなく、「異結合」であると述べています。まだ見ぬ新しいものやアイデアを追い求めるのではなく、みずからの強みを起点に価値ある異質を組み合わせる。そうとらえればイノベーションに対する苦手意識も軽減されそうです。

 ただ、日本企業におけるイノベーションの課題といえるのが、「スケールアップ」です。新規事業がなかなか大きく育たないと悩む経営者は少なくありません。この弱点を克服するにはどうすればいいでしょうか。

 私は日本人がイノベーティブでないとはけっして思わないし、自然科学分野でのノーベル賞受賞者数を見ても、他の先進国にもまったく引けを取っていない。むしろ0から1を生み出すことが得意であると考えています。

 その一方で、そこからビジネスを生み、スケールアップする部分で、アメリカなどに大きく水を開けられています。実は、この1から10、さらに100にするところがイノベーションの本質で、1のままでは企業成長に資することはできません。アップルの本当のすごさはiPhoneを発明したことではなく、世界に広めたことです。スティーブ・ジョブズは0から1を生み出したのではなく、すでにあった技術を組み合わせてiPhoneをつくり、世界の人々の暮らしや仕事を変えた。10を100どころか、千にも万にもスケールさせたのです。これこそが本来のイノベーションだといえます。

 では、どうすればスケールアップできるのでしょうか。まず1から10は、社会実装とマネタイズに当たります。モノをつくるのではなく市場をつくる段階といえます。そのためには、誰にどうやって財布のひもを緩めてもらうのかを最初によく議論したうえで明確にしておくべきです。

 そして、次の10から100が市場拡大、本格的なスケールアップの段階となります。当然ながら、縮小する日本のマーケットに留まっていてはそれを実現できないので、世界に打って出る必要があります。その際に重要なのは、全部を自分でやろうとは思わないことです。10から100を苦手とするなら、それが得意なところと組めばいい。それを実践しているのが中外製薬です。優れた研究開発力を誇る同社は、製薬世界最大手であるロシュの傘下に入りながら、自主独立経営を維持しています。自社製品のグローバル展開をロシュに委ねることで収益基盤を安定させ、自分たちは技術開発や創薬、すなわち0から1の部分に集中投資できるようにしたのです。

 もちろん0から1を生み出し続けるのは、楽なことではありません。しかし、同じように1から10、10から100も簡単ではない。それならば、みずからの強みを見極めたうえで、自分たちがどの部分を担い、誰とどのように組んでいくのか。すなわち、共創と競争の領域を選び取っていくしかありません。ここにも学習する力と、それに基づく編集力が問われるのです。