「天神之眼」という最新のソフトウェアが仮に既存の車種にダウンロードされたとすれば、世界のBYD車が一斉にグレードアップすることになります。仮にという意味は、技術的には可能なのですが、国によっては政府から待ったがかかるだろうからすべてのBYDの性能が一斉に上がるわけではないという事情があります。しかしこういうことができるというのがSDV技術なのです。

 この自動車のスマホ化技術ですが、ふたつの理由から既存の自動車メーカーは開発に苦戦しています。ひとつは従来型の乗用車は一台の車の中にコントロールユニットと呼ばれる半導体が20以上も入っていたことでした。これは従来の自動車開発が多数の部品メーカーが参加しながらすり合わせ技術を用いて行われてきた名残です。

 それぞれの部品メーカーが自分の担当する部品に半導体を設置するのですが、結果的にたくさんあるうちのひとつの半導体のソフトを上書きすると他の半導体に影響を及ぼす可能性がでてしまうのです。ですから設計思想を変えてSDVを前提に新しい設計思想で開発しないと既存メーカーの車はSDV化できないのです。

 もうひとつの理由は、サイバー攻撃やウィルスへの対応です。当然のことですが自動車を制御するソフトウェアが攻撃されてしまうととんでもない事故を引き起こす危険があります。自動車のSDV化にはそういったことが起きないようにするセキュリティ技術が必須です。

 これは自動車メーカーにとっては新しい挑戦である一方で、スマホやパソコンなどIT技術を得意としてきた企業には手慣れた領域です。その差こそ新興企業がSDVでいまのところ先行する状況を生んでしまっているのです。

 BYDの発表でもうひとつ興味深かったのが新型の充電システムです。これは5分間の充電で400kmの走行を可能にするという新技術です。今、世の中で使える充電設備で一番高速なのはテスラのスーパーチャージャーが15分間で最大275km、日本のチャデモが30分で最大125kmほど充電することができます。