「かったるいなあって…」
若手行員たちが漏らした本音

 でも、留年だけはどうすることもできない。1年待ってくれるほど社会は甘くはない。支店長室を後にすると、作業台に大きな模造紙が広げられていた。

『入行おめでとう!ようこそ、みなとみらい支店へ』

 女性行員が、歓迎のポスターを作っている。私が依頼したものだ。頼んだ時は面倒臭そうにイヤイヤ返事をしていたが、皆でワイワイガヤガヤやっていると、楽しくなってきたのだろう。

 それにしても、どこから入手したのだろう。山下君の顔写真が貼られ、出身校などのプロフィールが書かれてある。顧客の個人情報に関して慎重に扱う銀行のはずだが、一体どうなっているのだろう。いずれにしても、なかなかの出来栄えだ。

「あ、目黒課長。どうです?いい感じでしょう?」

「さくら通りで花見兼歓迎会をやるんですけど、目黒課長は出席できますよね?」

「新入行員質問コーナーで『彼女いるか』って質問したらマズイですか?」

 まずい。内定取り消しになったとは言い出せなくなっていた。私が口ごもっていると、副支店長が階上から降りてきてサラリと言い放った。

「何やってんだ?新入行員?ああ、内定取り消しだ。卒業できなかったって人事部から電話あったわ。まあ、縁がなかったってことよ。片付けておけよ。お疲れさん」

 彼女たちは一瞬顔を見合わせたが、すぐに淡々と片付け始めた。その姿を見ながら声をかけた。

「悪かったね。早く準備してと言ったのはこっちだから…」

「いいんです。本当のことを言うと、かったるいなあって思ってたんです。花見とか、ウザって。まあ、いいんじゃないですか?仕事、ひとつ減ったし」

 支店長と同じ台詞を吐いた。これが若手行員の本音なのかも知れない。彼女らは閉塞(へいそく)感を抱えながら勤務している。就職氷河期の頃に新卒採用を控えたため、中間管理職が不足している。そこで現在、突貫工事のように中途採用者をかき集めているのだが、独特な組織風土に合わず、次々に辞めていく。一方、有望と目されていた新人は、早いうちに見切りをつけて辞めてしまうようになった。なのに、それらに対する支店長の対応は何も変わらない。平常運転だ。