道理のわかっている
江口のりこ演じる母・羽多子

 母・羽多子(江口のりこ)に付き添われて、ケガをさせた子(どうやら町の名士っぽく大きな家)の元へ謝罪に行く。でものぶは「弱いもんいじめするのが悪いがや」と開き直っている。そんなのぶにいいことを言う羽多子。

「のぶ なんぼ自分が正しい思いたち(思っても) 乱暴はいかん。痛めつけた相手に恨みが残るだけやき 恨みは恨みしか生まんがや」

 このお母さんは、じつにものの道理のわかっている人である。いつも淡々と落ち着いている。

 では、のぶの強情っぱりはいったい誰に似たのか。結太郎は「わしに似たがや」とやさしく言い、「そのまんま自分を曲げんとそのまま大きうなれ」と、「おなごも遠慮せんと大志を抱けや」と言って出かけていく。

 お父さん、そんなに強情っぱりに見えないが? この疑問に関しては後述する。ここで大事なのは、お母さんとお父さんが、のぶが生きるうえで重要な視点を示したことだ。

 自分を曲げずに大志を抱いて生きてゆくこと。でも、どんなに正しいと思っても、相手を痛めつけてはいけない。父と母で補完し合った良き教育と言えるだろう。

 朝ドラではたいてい、思う通りに自由に生きることを推奨しているが、そのため他人を押しのけたり傷つけたりしてしまうこともあった。だが『あんぱん』では他人の恨みをおもんぱかることが示された。

 そのわけは、嵩のモデルであるやなせたかしが、「正義は逆転する。じゃあ、決して引っくり返らない正義ってなんだろう。 おなかをすかせて困っている人がいたら、一切れのパンを届けてあげることだ」と言っているからであることは明白だ。モデルが強いテーマ性を持っていると、ドラマもそれに引っ張られる。いいことだと思う。