八:高性能なもの、高価格なもの、それまでプレミアムブランドでしか使っていなかった技術を、フォルクスワーゲンというボリュームブランドでも広く使っていく、ということです。

F:なるほど。今までは高級品にしか使われていなかったモノや技術を、広くあまねく使用していく。それで「民主化」と。先端技術の民主化こそが、フォルクスワーゲンというブランドの役割ということですね。「技術の民主化」という言葉は、ずっと昔から使っていたのですか。勉強不足でお恥ずかしい。初めて聞きました。
八:この言葉を使っているのはここ20年くらいですね。なぜウチが技術の民主化を行うのか、と本社で尋ねたら、「それこそが、我々フォスクスワーゲンの使命だから」という答えでした。
単に新しく高価な技術を取り入れるだけではなく、「ゴルフのクラスなのにこんなに静粛性が高い」とか、「パサートなのに最高級の乗り心地」とか、実際に体感できる、乗ってそれと分かる技術であることが特徴です。今回のDCCもそうです。ボリュームゾーンであるフォルクスワーゲンのクルマでこれが実現できたということは、非常に大きいと思います。
油圧ダンパーの変更で「ダイナミックな走行」と「快適な乗り心地」が両立可能に
F:「技術の民主化」。いかにもフォルクスワーゲンらしい、とても良いお話です。で、具体的にはどのように新しいのですか?可変ダンパー自体はすでに多くのメーカーが採用していますよね。特に目新しいものではない。
八:おっしゃる通り、DCC自体は前からあるシステムです。今回のパサートは、「Pro」というさらに新しいタイプの油圧ダンパーを採用しています。具体的に言うと、今までは伸び側と縮み側が同じだった油圧回路を、今回は独立した別の回路で、別のバルブでコントロールしているのです。
今までは硬くするのも柔らかくするのも1個のバルブで制御していたのですが、新しいのはそれが2個になっています。サスペンションが伸びるときは柔らかく、逆に縮むときは硬くするとか、そういう制御が従来型では物理的に難しかったのですが、Proは行き来が完全に独立しているので、極端な話、伸び側は一番柔らかく、縮むときは一番硬くとか、そんな複雑な動作にも対応することが可能になりました。
F:とてもありがたそうな技術に聞こえますが、ドライバーはその恩恵をどのような形で体感できるのでしょう?
八:例えば路面状況が荒れて厳しい道でも、フラット感を保つことが可能になりました。また、「ダイナミックな走行」と「快適な乗り心地」という、本来は相反する要素を、非常に高いレベルで両立することにも成功しています。
F:なるほど。確かに試乗したときにセレクターでスポーツとコンフォートを切り替えると、「これが同じクルマなのか……」と驚嘆するほど性格が変わりましたからね。