サステナブルな暮らしがなければ
サステナブルなビジネスは不可能

 ポールマンがユニリーバのCEOになってまず実行したことのひとつは、四半期利益見通しの公表の中止だった。そうした数字は、アナリストが顧客にその企業の株式を保持すべきか、買うべきか売るべきかを助言する際によく利用される。場合によっては株式市場が不安定になり、CEOにとって頭痛の種となりかねない。

「経営が近視眼的になっていました。個々の症状にばかり反応して根本原因まで目が行かないのです」、とポールマンは言う。

「それで私は、本気で事業を軌道に戻したいのなら、もう少し時間が必要だと思いました」

 四半期利益見通しのプレッシャーがなくなると、ユニリーバが行う投資のリズムを変えることができた。前任者たちの過小投資を元に戻すためには、それが必要だった。ポールマンの分析では、過小投資は、ユニリーバの業績悪化の背後にある問題のひとつだった。

 このように資金の流れを微調整する他にも、ポールマンとしては、従業員にもう一度長期的な視点で考える習慣を持ってもらう必要があった。CEO就任後、彼はイギリスのリヴァプールの近くにあるポート・サンライトで、初めての大きな執行役員会議を開催した。この街を従業員が暮らす村として建設した会社の創業者の考え方を、現在の役員たちに思い出してもらいたかったからだ。

 1885年、リーバ・ブラザーズという社名で創業した同社は、従業員の労働日数を削減し、医療給付や貯蓄プランを提供した。現在から見れば、企業が提供すべき手当としては必要最小限だと思えるが、当時としては他社のずっと先を行く内容だった。

 ポールマンは15万人近い社員を抱える同社の管理職、100人のうち70人以上を交代させた。研修プログラムを再度導入し、短期ボーナスではなく長期貯蓄に使えるように報酬体系を調整し、心身の健康や柔軟な働き方を支援する従業員の福利厚生制度を大幅に拡充した。「つき詰めれば、企業は人の集合体です」、と彼は言う。

「人がサステナブルな暮らしをしなければ、サステナブルなビジネスモデルは作れません」