精神に問題を抱える患者の2例目(今回は自慰のしすぎが原因だった)は、若い銀行員で、州の施設からわたしのもとへ送られてきた。性腺の移植を行うと、彼の頭の靄は完全に晴れて、現在は大銀行の頭取を務めている。

 性の問題と早発性認知症の改善は、まだ序の口に過ぎなかった。「カンザスのポンセ・デ・レオン」(編集部注:若返りの泉を探しているあいだにフロリダを発見したスペインの探検家)は、まもなくヤギの生殖腺の驚異的な力を発見する。

 肺気腫から鼓腸(編集部注:腸の中にガスが大量に溜まって腹部が膨隆した状態)まで、大きなものから小さなものまで27の病気に効くというのだ。ただし100パーセントではないと、ブリンクリーは慎重になる。自分の手術では、成功率はわずか95パーセント程度。さらに「精神の病」に関しては成功率がもっと下まわると、抜け目なく但し書きを付け加えている。

脊髄腫瘍に“ヤギの子宮”
私立探偵が暴いたクリニックの正体

 これがきっかけとなって、ブリンクリーの名が米国医師会のレーダーに初めてひっかかった。怪しい大言壮語にいつでも懐疑的な医師会は、ひとりの私立探偵を覆面捜査官としてクリニックに送りこんだ。 

 探偵はそこで、半身不随の60代の女性に出くわした。この患者は脊髄に腫瘍があり、その治療にブリンクリーはヤギの子宮をつかっていた。「患者はおぼつかない足取りで、1歩、また1歩とたどたどしく歩いていた」と探偵が報告している。

「部屋から部屋へ移動するのに手を貸したのだが、その女性は自分が歩けるようになったことをわたしに見せたいようだった。ごくごくゆっくりと、足をひきずりながら歩いて、以前より力が出るようになった気がすると、そういうのだった」

 しかしブリンクリーの飯の種はあくまでインポテンツの男性である。そちらの事業が拡大すると、駅からクリニックまでシャトル便を提供するようになった。駅に着いた患者を、たいていは月曜日の午後に、“ハッピーハリー”がマイクロバスで出迎える。