特に私の世代はいわゆるバブル世代で、まさに皆何者かであろうと背伸びしてきた世代。男女のスーツの肩パッドは自分たちを大きく見せたいという欲望の象徴そのものですよね。
ラテン語 肩パッドというのはそういう意味だったんですか。お洒落ではなく。
虚勢を張る人々が集う
SNSは現代の肩パッド
ヤマザキ あの当時は誰も虚勢を張ってる自覚はなく、単なる流行だったのかもしれないけれど、深層心理はやはり虚勢だったんじゃないかと思いますね。私はバブル世代だけど、バブルの恩恵を受けずにイタリアでド貧乏暮らしをしていたから、日本に帰るとみんながブランドものに身を固め、両手両脇にブランドの紙袋を抱えて、髪型もアクセサリーも大袈裟なのが異様な光景に見えました。
表ではそんなファッションに身を包んでいても、彼らの家は狭い四畳半だったりするわけですよ。
ラテン語 SNSは現代の肩パッドですね。
ヤマザキ そうですね。肩パッド以外だと、シークレットブーツってのもありますけど、時世を反映した言葉として選びました。
ラテン語 イソップ物語をラテン語にしたパエドルス(注3)の『寓話(ぐうわ)集』にある教訓です。
ヤマザキ イソップ物語にはいろんな動物が出てきますが、これは蛙と牛のお話ですね。

ヤマザキマリ・ラテン語さん 著
ラテン語 確か牛の真似をした蛙ですよね。
ヤマザキ そうです。お母さん蛙が、子どものために牛の真似をしてどんどん腹を膨らませていったら、破裂して死んでしまうという話ですね。要は身の程知らず、ということですけど、身の程というのはそれだけ大事なことなんですよ。やっぱり“何者”になることを目標とさせる教育が、そういう蛙的人間を生んでしまうようにも思うんですよね。
ラテン語 今はブランドものを借りるサービスとかもありますよね。車で見栄を張る人もいますね。
ヤマザキ 家もですね。成金が大きな建物を建てたがるのは、大きさで虚勢を張る最たる例かもしれません。あと、アプリを使って実際の自分を加工し、シワを消したりして周りに若く見せることも、蛙行為だと思います。