「暮らすように旅をする」ことが
疲れない旅の基本

慶子さんと本

田中 冒頭でも触れたように、ひうら先生は、旅や温泉など、充実したプライベートを過ごされていますね。つい最近、『58歳、旅の湯かげん いいかげん』という本も出されましたね。

 早速拝読しましたが、計画の立て方、持ち物リスト、便利なツールのほか、食事する場所の探し方や、体調管理の方法など、特に中高年世代にとって実践的なノウハウが満載で、とても読み応えがありました。

 先生とは旅行もご一緒させていただいたことがありますが、「50代は旅を楽しむのにちょうどいい時期」「旅先こそ、日常のリズムを大切に」「おみやげは『顔が浮かぶ人だけ』と割り切る」など、あらためて、旅行における根本的な部分を見つめ直すきっかけにもなりました。

ひうら 通訳のお仕事で、世界を股にかけて活躍していらっしゃる慶子さんにそう言っていただけるのは恐れ多いです。

書影ひうらさとる『58歳、旅の湯かげん いいかげん』(扶桑社)

田中 仕事では出張は日常茶飯事ですが、自分で計画するプライベートの旅については、素人同然なんですよ(笑)。

ひうら たしかに仕事の場合は、あらかじめ、スケジュールなどがお膳立てされていたりしますものね。この本では、旅をするときの基本として、「詰め込みすぎない」ことを提案しています。「暮らすように旅をする」というのがモットーなんです。

 荷物は最小限で、必要なものは現地調達する。友人同士での旅では、現地集合、現地解散で、部屋は別々に取るなど、プライバシーを確保しつつ、楽しく旅をするというのが、私の基本姿勢です。

田中 「『観光地めぐり』が旅じゃない」と書かれていたのも印象的でした。「疲れない旅の仕方」というのは中高年世代には特に重要ですね。

ひうら先生縦

ひうら 自分のペースを守って、無理をしないことが大切です。

田中 ご家族との旅行中も、家族が起きる前に起きて、少し仕事をしてから、一緒に朝食を食べるとありました。旅の最中にも、仕事が組み込まれていますね。「暮らすように旅をする」のコツでもあると思いました。

ひうら 旅行中にまったく仕事をしないでいると、旅行の前後にしわ寄せが来て、かえって日々のペースが崩れることもありますし、気になって旅も楽しめません。それよりも、旅の合間に少しずつでも描いておくのが、結局、私はラクなんです。

田中 仕事の中でデジタル化できるところはデジタル化しておいて、移動中でも仕事ができるようにしているというのも、重要なポイントですね。

ひうら それは本当に大きいです。今、「城崎(きのさき)温泉」で有名な温泉街、豊岡市城崎町に住んでいるのですが、仕事をある程度、デジタル化しておいたので、東京から兵庫県への移住も、比較的スムーズに行うことができました。

「旅をするように暮らす」
温泉街へ移住した理由

田中 ひうら先生は、暮らすように旅をしていますし、日々の生活も「旅をするように暮らしている」という印象を受けます。

ひうら そうですね。城崎は観光地なので、旅の情報にあふれています。地元の人も、観光業の関係者が多く、いろいろな観光地に視察に行くなど、旅が日常になっている。それで、「東京で開店したばかりのあの店がおいしい」とか、「フレンチシェフのつくるベトナム料理が今とても『アツい』」など、その方たちからも、さまざまな最新情報が入ってくるので、刺激的です。

田中 全国の情報が入ってくるわけですね。だから、住んでいるだけでも、旅の気分を味わえる。

おふたり2

ひうら 観光客は、みなさん「ハレの日」の気分で訪れるので、「ここにいる間は、誰もが幸せ」みたいな空気に包まれているんです。たとえ、不倫のような「ワケあり旅行」だとしても(笑)。

 映画村にいるような、非日常の雰囲気をつねに感じられることが気に入っています。

 訪れた人たちから「いいまちだね」と言われるので、城崎の人たちも、子どもたちも、自己肯定感が高いんですよ。

田中 なるほど、外から来た人たちに言われることで、地元愛が高まる。城崎の若い人たちが、一度、地元から出て、またUターンで地元に戻ってくるというパターンが多いらしいですね。

ひうら 以前は市内に大学がなかったため、高校卒業後に地元を出ていく人が多いのですが、そのうちまた戻ってきてくれるんですね。

 あるお寿司屋さんの跡取りは、「地元を出ても、戻ってくることは決めているから、地元を離れている間は、好きなことや、お寿司とまったく関係ないことをしよう」と、沖縄のスキューバダイビングの学校に入学したそうです。サバティカルタイム(※用途を決めず取る長期休暇)のように、一定期間、自由に過ごし、地元に戻ってきた後は、家業を継ぐ。

おふたり1

田中 ひうら先生は、城崎で骨を埋めるつもりで移住されたのですか。

ひうら いえ、移住したときは、夫の仕事の関係もありましたが、夫婦で「城崎、いいね」「長くいようか」くらいの軽い気持ちでした。私自身、もともと引っ越し魔。どこかに根付きたいという思いはあまりないんです。

田中 旅も仕事も人生も、気負いすぎないことが重要なのかもしれませんね。旅の極意、仕事の極意、人生の極意――いろいろ貴重なヒントをいただきました。今日はありがとうございました。

ひうら こちらこそ、ありがとうございました。ではこの後、YouTubeで今回の対談の感想でも話しましょうか。

おふたり