――秘書の皆さんに着目したのは面白いですね。必ず役員の耳に入りますから、トップダウンの推進力になるでしょう。そういう仕掛けづくりも見事です。

太古さん:よく、「どうやって全社にDXを浸透させるのか」と聞かれます。本当にやる気のない人もいて、どうしたら興味を持ってくれるのかと悩むこともあるでしょう。ただ私は、やりたいと思わない人たちにやってもらう必要はないと思っています。やる気のある人たちにしっかり伴走して成功事例を作り、その人たちに発信してもらうことで、DX推進部が無理やり巻き込もうとしなくても「うちもやってみよう」と広まっていくのです。

自由な挑戦とガバナンスの両立

――工場で自作のシステムが増えると、属人化やブラックボックス化、ガバナンスの問題が出てきそうですが、どう対応されていますか?

太古さん:ある程度スキルがあれば他人が書いたコードを読み解けるので、あまり心配していませんが、現在はさまざまな事例をパッケージ化し、GitHubのような仕組みでコードの共有・標準化を進めています。プログラミングができる人材が増えれば修正も容易になりますし、たとえ読み解けないコードがあったとしても、生成AIの助けを借りて解決できるでしょう。

 ガバナンスについては、AI利用のルールやガイドラインを設けています。重要なのは「統制すべき領域」と「自由に挑戦できる領域」を区別すること。生産ラインの大規模システムは厳格に管理しますが、現場レベルの小さな改善は自由にやってもらうなど、柔軟性を大事にしています。

縦割り組織だからこそできることがある

――縦割り意識が強すぎる組織の場合、DX推進はどこから始めるべきでしょうか?

太古さん:縦割りは必ずしもマイナスではなく、むしろ活かせるポイントだったりします。自動車業界は従来「自工程完結」が一般的で、縦割りの最たるものだと思います。最初から部門横断で取り組めるテーマがあれば理想的ですが、現実はそうではありません。10の部署があれば、それぞれの部署で完結する小さなDXテーマから始めて、それらの「点」を後から「線」で繋げていく戦略が有効なんです。縦割りだからできないのではなく、縦割りだからこそできるやり方があります。