響く1人を見つける~DX実践者を育てる戦略
――自発的にDXに取り組む社員を増やすために、どのような働きかけをされていますか?
太古さん:たくさんの刺激やきっかけを提供することです。人によって何が響くか変わってくるので、とにかくいろんな施策を打っています。勉強会一つとっても、漠然と「AI勉強会」とするのと、「画像解析AI勉強会」など具体的なテーマを打ち出すのとでは、ずいぶん反応が変わってきます。
「社内の勉強会やコミュニティが盛り上がらない」という声も聞きます。私の場合は、100人に1人でも響けばいいと考えています。それを100回繰り返せば、100人の仲間ができる。そのために、イベント、ワークショップ、講演会など、とにかくたくさん開催しています。ただ惰性で続ければいいってものではありません。いかにその1回で参加者の心を動かせるかが大事。それが次のアクションにつながります。

――研修に消極的で、お客さん的な参加者もいるのでは?
太古さん:一定数います。ただ段階的に考えればよくて、最初はやる気のある人から始めればいいんです。成功事例が増えれば、周りも「やりたい」か「やらざるを得ない」状態になり、お客さんだった人も自然と当事者に変わっていきます。そうですね、まずは足引っ張らずにいてくれるならいいんじゃないでしょうか。「できひんけど応援はするわ」みたいな感じで。
製造業全体が、デジタルの力を使ってより良くなれるはず
AI物体検知システムを作った組立課の宇田さんは、太古さんとの関係をこう表現した。「太古さんは外向きの刀を持っていて、僕は内向きの刀を持っている。役割分担して、僕が中の事例をいっぱい作ったら、それを利用して外へもっと広げてほしい」(宇田さん)
仲間がいるから、大きなことを成し遂げられる。二人が出会ってくれて本当に良かったと、筆者はかげながら思っている。
ダイハツ工業は今、変革の真っただ中にある。太古さんが掲げる未来像は「楽しく働いて楽しいものを作る」こと。「製造業全体がデジタルの力を使ってより良くなる可能性がある。自社以外にもデジタル活用の輪が広がる活動ができれば」と、その視線はさらに先を見ている。