BYD「軽EV」の次に来る
「破壊的イノベーション」とは

 さて、このように考えるとBYDの軽自動車投入は、日本車メーカーが過剰に警戒する必要はないかもしれません。ただ想定外のものが入ってくると、この前提が崩れて大混乱になる可能性があることは忘れないほうがいいでしょう。

 たとえば、もし2026年の軽のEVに続けて、2027年あたりにBYDが軽のプラグインハイブリッドを出してきたらどうでしょう。

 今のところプラグインハイブリッドはコンパクトカーには不向きです。中国市場でもBYDのPHEVのラインナップに小型車はありません。世界で見てもVWのゴルフがプラグインハイブリッドを出しているのが、一番小さいモデルではないでしょうか。

 とはいえ、モーターショーでは小型のプラグインハイブリッドはコンセプトモデルとして発表されていて、技術的にはできないことではないでしょう。そういった想定外のヒット商品が生まれることで日本人もBYDを「ありかも」と考え始めるのは怖いシナリオです。

 想定外のものが入ってくるという観点でもっと怖いのは、宏光ミニEVと類似したスペックの軽EVで日本市場に参入するケースです。走行距離が170kmぐらいとサクラよりやや劣る一方で、日本での販売価格が税込110万円だったとしたらどうでしょう。

 そして、発売される頃にはトランプ関税のせいで世界が大不況になっていたとしたら?ガソリン代が高騰し、生活が苦しくなる日本で、ガソリン車の最安値モデルと同じ価格で燃費が良いEVが補助金付きで買えるとなると、心が動く日本人の消費者が出始めるかもしれません。

 日本の自動車メーカーにとって一番怖いのは、BYDがイノベーションのジレンマで言うところの破壊的イノベーターの位置づけを確立することです。安かろう悪かろうだと思っていた消費者が、いざ使い始めてみると「この安さでこの性能なら十分じゃないか」と考え始め、いつのまにか低価格市場が破壊的イノベーター製品に占有されてしまうという事態です。

 さて、本当のところ、来年の今ごろ発表されるであろうBYDの軽自動車の新車情報を見ないことには、どのような黒船がやってくるのかはまだわかりません。自動車の開発サイクルを考えると、現時点でもうそのスペックは固まっているはずです。どのシナリオで黒船が来たとしてもうろたえずに立ち向かえるように、一定の準備は必要だと私は思います。なめてはいけません。

【前編】残念ですが、国産車では足元にも及びません…BYDの「軽EV」と国産首位・日産サクラの圧倒的な性能差