もし他人が見ている前でのスパーリングでギブアップを取っちゃったりしたら失礼だし、あの人から取ったりしたら何をされるかわからない(笑)。
いざとなったら、目ん玉の中に指を入れたりするんだから。かといって、わざと取らせたりすると、「お前、今わざと極めさせただろ!コノヤロー!」ってぶん殴られるわけだよ。俺はどうすりゃいいんだい?(笑)。でも、ずっとスパーリングをやっていると、どんな動きをすればいいかわかってくる。
猪木さんも言ってたけど、スパーリングなんてセックスみたいなもんでな。裸と裸で取っ組み合ってるわけだから、長くやってると信頼関係みたいなのができてくるんだよ。相手のツボがわかるというか。相手の性感帯がわかるみたいなね(笑)。人柄までわかるようになるからな。
あくまで猪木さんの練習であり、俺の練習ではないと言ったけど、ちゃんと頭で考えてやれば、自分のためにもなる。格闘技っていうのは相手の心理を読むのが大事だけど、その格好の訓練にもなったな。
俺は猪木さんの弟子だけど、べつに猪木さんから手取り足取り技術を教わったわけじゃない。猪木さんは俺のコーチじゃないからな。自分から見て触れて、猪木さんから学び取るんだ。
「てめー、刺し殺したろか!」
イワン・ゴメスに激怒した理由
そもそも猪木さんは本能で闘っていたようなところがあったから。ブラジルで生きるか死ぬかの生活をしてきた経験からか、闘いに対してもそういった覚悟が感じられたし、動きも頭で考えるのではなくて動物的本能で動いているような感じに見えた。
だから俺は37歳の時に関節技の技術書を出させてもらったけど、猪木さんが書いたプロレスの技術書っていうのは存在しないんだ。
「こういう体勢になったときは、本能で極めろ」じゃ、読んだ人はなんだかわからないからな(笑)。プロ野球の長嶋茂雄さんも猪木さんみたいなタイプじゃないのかな。長嶋さんもあれだけ素晴らしい成績を残した人だけど、どうして打てるのかは感覚的なもので、人に教えられるようなものじゃなかった気がするんだよ。猪木さんも同じような感じで、要は天才だっていうことだよな。
俺は猪木さんの鞄持ちとして海外のいろんな国にもついて行ったけど、国によっては付き人のような徒弟制度を理解しないところもあってな。「お前はスレイブ(奴隷)か?」なんて言われたこともあったよ。面倒くさいからべつに言い返さなかったけどさ。
日本に来る外国人でもその辺を勘違いするヤツがひとりいた。ブラジルから来たイワン・ゴメス(編集部注/ブラジルの格闘技「バーリ・トゥード」の選手。ブラジル遠征中のアントニオ猪木の試合を見てプロレスに興味を持ち、猪木に弟子入り)だよ。