俺はあいつが外国からたったひとりで日本に来て、いろいろ困っているだろうと思って会社の車を運転して役所につれて行ってやったり、「手紙を出したい」と言えば郵便局につれて行ってやったりしたんだよ。

 俺は親切心でやってやったんだけど、アイツは俺が猪木さんの鞄持ちをやっているのを見て、そういう召使いや奴隷みたいな立場の人間だと勘違いしやがって、偉そうな口をきくようになったんだ。

 あの時は、「てめー、この野郎!刺し殺したろか!」と思ってな。それから関係がおかしくなったんだよ。

イワン・ゴメスから盗んだ
関節技「ヒールホールド」

 そもそもあいつは道場の中で浮いてたし、もっといえば嫌ってたヤツもいたんだよ。新日本がブラジル遠征をした際、俺たちの神様である猪木さんに挑戦してきたヤツだからな。

 あいつはモハメド・アリにも挑戦しようとしたらしいけど、猪木さんにしろアリにしろ、挑戦を受けるメリットが何もないじゃねえか。ゴメスと対戦したところでお客は入りそうもないし、万が一、ケガでもしたら丸損だろ。そんな無駄な危険は冒さないよ。「お前なんか100年早えよ!」ってことだ。

 でも、猪木さんはブラジルの「バリツーズ」(バーリ・トゥード)という未知の格闘技が新日本のプロレスにも何か役立つものがあると思ったんだろう。ゴメスをプロレス留学生として道場で受け入れたんだ。それで俺も何か盗むものがあるかと思って、よくスパーリングをやったよ。

 ゴメスは関節技に関してはそんなうまくなかったよ。首絞めばっかりやってきてな。首絞めもわかっていれば防御できるようになるから、なかなか絞められねえよ。

 ただ、ヒールホールドっていう、当時の俺たちが知らない技を使っていたから、それは俺がゴメスから盗んだんだ。ゴメスが使っていたのは外側からヒールをフックする形だったけれど、俺流に改良して内側からも極められるようにしてな。

 だから俺はゴメスとけっこう仲がいいほうだったんだよ。あいつが偉そうなことを言ってくるまではな。