猪木さんが俺に対して
「お前は天才だよ」って言ってくれた

 ゴメスとは試合も何度かやったよ。アイツの相手をするのは、たいてい俺か荒川さん(編集部注/ドン荒川)、あと大城大五郎さんだった。みんな頑丈なヤツらばかりだよ。ゴメスはプロレスが下手でムチャするから、壊されないような人間を選んだんだろう。

 ゴメスは新日本で85勝無敗だかの戦績が残ってるらしいけど、ハッキリ言えば負けてやったんだよ。

 あいつが日本に来て初めて試合をした時の相手は俺だからね。試合前、猪木さんから「花を持たせてやれ」というような意味合いのことをチラッと言われたから、試合中のいいタイミングでそうしてやろうとしたんだよ。ところがアイツがテンパっちゃってな、何がなんだかわからくなったんだ。

書影『猪木のためなら死ねる!2「闘魂イズム」受け継ぎし者への鎮魂歌』『猪木のためなら死ねる!2「闘魂イズム」受け継ぎし者への鎮魂歌』(宝島社)
藤原喜明、前田日明、鈴木みのる 著

 でも、俺は冷静だからうまいこと試合をそのまま続けて、最終的にはしっかりと終わらせたんだよ。ところが控室に帰ったら猪木さんに、「おい!そんなに勝ちたいんだったらアマチュアでオリンピックにでも行け!」って叱られたんだ。俺が意地を張って負けないようにしたと勘違いしたみたいなんだよ。

 だから俺が「いや、自分はこうやったんですけど、アイツがテンパッちゃってこうなったんです」と説明したら、猪木さんも「ああ、そうだったのか」と納得してくれてね。

 つまりどういうことかというと、プロ中のプロであるアントニオ猪木が観てもリアルな闘いに見えたってことだよ。自分で言うのもなんだけど、俺がそういう試合をしたんだ。そういうことがあったからか、晩年、猪木さんは俺に対して「お前は天才だよ」って言ってくれたのかもしれないな。