
兵庫県豊岡市に、いち早く女性幹部の育成に取り組んできた自動車整備会社がある。まだ完全に「男の世界」であった車業界に乗り込んだ、2人の子どもを抱えるシングルマザー。男性の顧客や整備士たちから厳しい言葉をかけられながらも奮闘した、そのキャリアヒストリーを紹介しよう。※本稿は、著者名『地方で拓く女性のキャリア 中小企業のリーダーに学ぶ』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。
いち早く女性幹部の育成に
取り組んだ自動車整備会社
兵庫県豊岡市は、「ジェンダーギャップ(編集部注:男女の違いによって生じる格差のこと)の解消」を全国に先駆けて看板に掲げた自治体である。2021年3月に「豊岡市ジェンダーギャップ解消戦略」を策定した。その書き出しは「気が付くと、若い女性がまちからすーっといなくなっていました」というものだ。
10代で進学などにより転出した若者のうち、男性は2人に1人が20代で地元に戻るのに対し、女性は4人に1人しか戻らない。女性が住みたいと思う街をつくらない限り、衰退の道を辿るのみという問題意識である。
2018年には、男性中心の働き方を変革しようと、市内事業所が参画して「豊岡市ワークイノベーション推進会議」を立ち上げ、研修やワークショップなどで地元企業の変革を促してきた。
女性社員を育成する機運は高まっているが、管理職の登用にはあと1歩というところが大半だ。そのなかで、いち早く女性幹部の育成に取り組んできたのが、市内のワタキ自動車である。
京都から山陰本線に乗り、特急で2時間半。志賀直哉の小説『城の崎にて』で知られる城崎温泉のひとつ手前の豊岡駅に降り立つ。