駅から7分ほど歩くと幹線道路沿いにワタキ自動車の看板が見えてくる。ダイハツの販売代理店であり、奥には整備工場を備える自動車整備会社で、従業員は25人である。
専務取締役として現場を取り仕切るのは、岡本典子さん(50)。地元の高校を卒業後、但馬信用金庫に入社した。退職して2児の母となるも離婚、3歳と1歳の娘を抱えてハローワークに駆け込んだ。そこで紹介されたのが、ワタキ自動車だった。
高校時代の通学路にあった会社で馴染みがあった。父親がタクシーの運転手だったこともあり、車に関わる仕事もいいかもしれない、と漠と思ったという。
顧客のクレームに耐えきれず
泣き出したことも
岡本さんがハローワークから紹介を受けて面接で訪れたときのことを、上田直樹社長(58)はよく覚えている。
子ども2人を抱えたシングルマザーで「切迫感がにじみ出ていた」。しかし、別の新卒女子に内定を出したばかりで、もうひとり採用する余裕はなく「就活頑張ってください」といった感じで送り出した。
その晩、岡本さんから電話がかかってきた。
「両親が子どもをみてくれることになりました。ぜひ宜しくお願いします」
上田社長はピンときた。根性がありそうだ、前に出ていくタイプなのがいい、と思ったのだ。パート社員として入社してもらうことを、その場で決めた。
入社した岡本さんは店舗の窓口担当となり、車の修理や車検の依頼に対応することになった。いきなり接客についたものの、車の知識がない。車の不具合を訴えられても専門知識がなくて満足な対応ができず、顧客から怒られた。自分が情けなくなり、泣けてきた。
「泣けばすむと思うなよ」
さらに怒られた。
「すみません、10分ください」
こう言って、トイレに駆け込んで泣いた。怒られ、涙をこらえながら対応した顧客とは、その後不思議と仲よくなったという。
入社した2000年当時、車業界は完全に「男の世界」だった。整備士の男性からは日々厳しい言葉をかけられた。