「女に車のことは分からないだろう」
「事務員はコピーだけ取っていればいいんだ」
こう言われたが、食い下がった。
「お客様のために、会社のために、私ができることは何でしょうか」
コピー取りのために会社に入ったのではない、自分で判断できるようになりたい、と必死だった。車の整備について知識を蓄えていくと、男性整備士の態度も次第にかわっていった。
「俺の言うことだけやっていればいい」と言っていた整備士から、「頼むよ」と言われたときは、思わず笑みがこぼれた。
入社間もなくのころは「何度も辞めたいと思った」と笑う。それでも踏ん張ったのは、娘2人の姿が頭に浮かんだから。
「子どもたちがいなければ、ここまで来れなかったと思う」
実家暮らしで、家事は母親に頼ってきた。働いて稼がないといけない、娘たちに欲しいものを買ってあげたいという思いが原動力になった。
会社の外で認められた経験が
自信につながった
上田社長はある日「損保会社の宿泊セミナーに参加しないか」と岡本さんに声をかけた。車の整備の受付窓口では損害保険の扱いもしており、取引先の損保会社から窓口担当者向けの接客セミナーの案内が届いていた。
上田社長は、岡本さんの仕事ぶりを見守りながら「下の子どもが小学校4年生になれば出張もできるだろう」と、待っていたのだ。
なぜ子どもの年齢まで分かるのだろう。実は上田社長は、従業員の子どもの誕生日には欠かさず1000円の図書カードを贈っている。従業員1人ひとりの子どもの成長をみながら、どこまで仕事ができるか、細やかに見極めているのだ。
岡本さんが受講したのは、千葉県で行われる女性対象の1週間のセミナーで、受講料は8万円ほど。会社に費用を負担してもらい、さらに1週間も会社を抜けるとあって恐縮しながら参加した岡本さんは、ここで一皮むける経験をする。
整備や車検の受付業務、損害保険の販売にあたりどのように顧客に対応して納得してもらうか。その接客姿勢が高く評価され、接客場面がDVD教材に収められて全国の損保代理店に配られることになったのだ。