初めて会社の外で認められたことで、自信がついた。

「入社8年、悶々としてきましたが、ようやく会社のお役に立てていると思えた」

顧客に共感することで
営業成績を伸ばす

 では、どんな接客が評価されたのか。車の不具合で訪れた顧客に対して、窓口でよく口にされるのは、こんな台詞だ。

「この車も古いですからねえ。まあ仕方がないですね」

 ところが、岡本さんがかける言葉は違う。

「大事に乗っていらしたのに、具合が悪くなったのはなぜでしょう」

「お困りでしたね」

 どんな車も、その人にとっては唯一無二の愛車である。長年大事に乗ってきたことを認めれば、整備代も気持ちよく支払ってくれるという。

 こうした対応で顧客と親しくなるうちに「新しい車が欲しいんだけど」という話になる。1台、もう1台と車を売るようになった。

 車の販売でも、岡本さんの接客姿勢が光ることになる。とにかく顧客の話に耳を傾ける。

「この車でどんなことをされたいのですか」

 傍らに並ぶようにして、顧客がこれからの人生をともにする車のストーリーを共有する。従来の値引き競争とは一線を画す、共感型営業である。

 ちょうどそのころ、自動車メーカーが女性向けの車を開発して販売に力を入れ始めたころで、岡本さんの営業手法が顧客の心をつかんだ。

 営業成績を伸ばし、2013年に販売部部長に昇進。いつしかダイハツ但馬でトップセールスを記録するようになる。

他社とも交流を持ち
業界の女性社員育成に尽力

 2017年には専務取締役に就任、順調に駆け上がったかに見えるが、実は管理職を引き受けることには尻込みをしていた。そんな岡本さんを、上田社長は社外に連れ出した。

 ひとつは、兵庫県中小企業家同友会。岡本さんはここで異業種の社長らと知り合う。あるとき、経営幹部になることについて、大手製造業の社長に思い切って相談してみた。するとにこやかにこう返された。

「大丈夫だよ。役職を引き受けると成長するものだから」

 この言葉に「背中を押してもらいました」と岡本さん。