いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳)がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)

女優の不倫報道を見て、「『裏切られた!』と怒る人は二流。では一流はどうする?Photo: Adobe Stock

平静と自由を手に入れる

人を興奮、もしくは恐れさせる、ありとあらゆるものを駆逐すれば、終わりなき平静と自由が訪れる。
……そうしてわたしたちは計り知れないほど大きく、変わることのない安定した喜びと、静かに安らいだ大らかな心、そして思いやりを得るのだ。
(セネカ『幸福な人生について』)
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より

興奮と恐怖に振り回される

 以前ゾンビドラマにハマっていた頃、毎日、興奮と恐怖で大忙しだった。

 ある日、目を覚ましたら世界はゾンビだらけになっていた……。

 ゾンビに噛まれれば自分もゾンビになってしまう。そういう極限状態で人間は何を考え、どう行動するのかを考えさせてくれるドラマだ(ちなみに11シーズンもある)。

 主人公たちが危機を脱して大喜びしたかと思うとすぐに地獄に突き落とされるのが繰り返された。

 睡眠不足になるうえに怒ったり泣いたりしている私に、夫は「なぜわざわざ感情を揺さぶられるものを見るの?」と呆れ気味だった。

(フィクションによって)感情を揺さぶられるのが、面白いのだ。これぞエンターテイメントではなかろうか。

 それ以来、私の中で「興奮と恐怖」といったらゾンビのことである。

いちいちゴシップに振り回される人の末路

 ストア哲学者のセネカが、「興奮と恐怖を引き起こすものを駆逐すれば、自由と平静が訪れる」と言っているのを知って、深く頷いたのはそういうわけだ。

 ゾンビが街を闊歩している限り、「変わることのない安定した喜び」や「静かに安らいだ大らかな心」、「思いやり」を持つことは難しい。

 本来、協力しあうべき人間同士も疑心暗鬼になったり利己的になったりして大変なことになるのである。

 では、現代のゾンビ的なものとは何か。

 スキャンダルで注目を集める商法、人々の分断を煽る言説、過剰に感情を揺さぶる広告……。

 これらは面白いことは面白い。エンターテイメントになる。だが、一定の距離を保たなければ噛みつかれていつのまにか自分もそちら側に取り込まれてしまう。平静と自由がなくなってしまうのだ。

 ワイドショーで不倫報道を見たりネットでゴシップ記事を読んだりしては「裏切られた!」「信じてたのに!」などといちいち振り回されている人は、自ら進んで時間と集中力を差し出し、心の平静を手放しているようなものだ。

 そもそもそれらの情報は自分には何の関係もない。だが、それでも見れば感情が振り回される。であれば、最初からそんなニュースは自分から見たり読んだりしないに限る。それが一流の対応と言えるだろう。

 日々、襲い掛かってくるものに対して、落ち着いて距離を保ち、自分の心を平静で自由であるよう守りたいと思う。

(本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です)