そもそも「印象がいい」とは何なのか?
20万部のベストセラー、200冊の書籍を手がけてきた編集者・庄子錬氏。NewsPicks、noteで大バズりした「感じのいい人」の文章術を書き下ろした書籍『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』(ダイヤモンド社)を上梓しました。
実は、周囲から「仕事ができる」「印象がいい」「信頼できる」と思われている人の文章には、ある共通点があります。本書では、1000人の調査と著者の10年以上にわたる編集経験から、「いまの時代に求められる、どんなシーンでも感じよく伝わる書き方」をわかりやすくお伝えしています。

「印象をよくしようとすると印象が悪くなる」ジレンマ
本連載のテーマは「感じのいい人の文章術」です。
ただ、こう思った人もいるかもしれません。「そもそも印象がいいとはなんなのか?」と。
そこで今回は「印象がいい」の解像度を上げて考えてみたいと思います。
まず質問です。
あなたが「印象をよくしよう」と思い立った場合、なにからとりかかりますか?
真っ先に挙がりそうなのは見た目でしょうか。髪型を整える、シャツにアイロンをかける、爪を短くするなど。
あるいは「相手の話を聞いて、たくさんほめる」といった傾聴や話し方に関する工夫が思い浮かんだ人もいるかもしれません。
ほかにも、ていねいな所作を意識する、気配りをする、知識や教養を身につけるなども挙がりそうです。印象をよくしようとしたときに出てくるポイントはたくさんあることがわかりますね。
でも残念なことに、これらすべてを漏れなく実行しても、印象がいい人になれるとは限りません。
印象のよさを評価するのは、自分ではなく他者だからです。
当たり前ですね。「私は印象がいい人間である!」といくら公言したとしても(そんな人いないでしょうけど)、「なんかうざい」「信用できないな」と感じる人がいたら、少なくともその人にとっては印象が悪いとみなされる。これが印象の良し悪しを考えるときに忘れてはいけない前提です。
そして、ここである問題に気づきます。
印象のよさを評価するのが他者だとすると、ぼくたちは他者の目を気にするようになります。
相手を傷つけていないか? 自分の意見を押しつけすぎていないか? 食事のマナーを守れているか? 髪型が乱れていないか? 声が大きすぎないか?
寝ても覚めても他者の目を意識せざるをえない。大げさではなく、そういう人もたくさんいると思います。
しかし他者の目を意識しすぎると、「私って周囲から見ていい感じになっているだろうか」というキョロキョロ感が強く出てしまう。自信がなくて、他人の評価に敏感で、自身を卑下しているように見える。都合がよさそうな人間に見えてしまう。このようにキョロキョロ感は、過度に働くとネガティブな結果をもたらしかねないものです。
印象のよさを評価するのは他者である。
でも他者を気にしすぎると、印象は悪くなる。
印象について考えるうえでは、このダブルバインド(逃げ場のないジレンマ)を把握しておくことからスタートしなければなりません。
1988年東京都生まれ。編集者。経営者専門の出版プロデューサー。株式会社エニーソウル代表取締役。手がけた本は200冊以上、『バナナの魅力を100文字で伝えてください』(22万部)など10万部以上のベストセラーを多数担当。編集プロダクションでのギャル誌編集からキャリアをスタート。その後、出版社2社で書籍編集に従事したのち、PwC Japan合同会社に転じてコンテンツマーケティングを担当。2024年に独立。NewsPicksとnoteで文章術をテーマに発信し、NewsPicksでは「2024年、読者から最も支持を集めたトピックス記事」第1位、noteでは「今年、編集部で話題になった記事10選」に選ばれた。企業向けのライティング・編集研修も手がける。趣味はジャズ・ブルーズギター、海外旅行(40カ国)、バスケットボール観戦。
※この連載では、『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』庄子錬(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集して掲載します。