「キョロ充=ダサい」はもう古い!
伝え上手な人は、「キョロキョロ」を使いこなしている
20万部のベストセラー、200冊の書籍を手がけてきた編集者・庄子錬氏。NewsPicks、noteで大バズりした「感じのいい人」の文章術を書き下ろした書籍『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』(ダイヤモンド社)を上梓しました。
実は、周囲から「仕事ができる」「印象がいい」「信頼できる」と思われている人の文章には、ある共通点があります。本書では、1000人の調査と著者の10年以上にわたる編集経験から、「いまの時代に求められる、どんなシーンでも感じよく伝わる書き方」をわかりやすくお伝えしています。

コミュ力が高い人があえて「キョロキョロ感」を演出する理由Photo: Adobe Stock

「キョロキョロ」の意外なメリット

2013年頃、ネット界隈では、常に周囲の目を気にしてキョロキョロしている人のことを「キョロ充」と呼んでいました。

その極端な例として、一人での食事を隠すためにトイレで弁当を食べる大学生の姿がメディアやSNSで話題になっていました(さらにその前には「便所飯」という言葉も流行ってましたね)。

当時、キョロ充は「自信がなくて一人で行動できない人」と揶揄(やゆ)する文脈で主に使われていました。

ですが近年では「他者の目を気にせず、好きなように生きればいい」というスタンスが主流になった気がします。「キョロキョロしちゃう気持ちはわかるけど、あなたはあなたのままでいいんだよ」と表面的には寄り添うことで、露骨に嘲笑する対象ではなくなったということです。

とはいえ、いまでもどちらかといえばネガティブな文脈で語られ、「改善すべき対象」としてみなされていることには変わりありません。

でも、考えてみてください。
本当にキョロキョロは不必要なものなのでしょうか。周りの目を気にするって悪いことなのでしょうか?

答えはノーではないか。
いやむしろ、キョロキョロこそが、仕事でも人間関係でも、そして「感じのいい文章を書く」うえでも大事なんじゃないか。

これがぼくの見解です。

ぼくの見解なんて偉そうに言いましたが、これは内田樹さんの著書『日本辺境論』からの受け売りです。

この本では、歴史文化的に見ても日本人はキョロキョロしてしまう生き物である、そして日本人(辺境人)は「起源からの遅れ」という構造特性があるからこそ学びの効率がいい、という文明論的洞察が説かれています。

すごくコンパクトにまとめると、キョロキョロは学びを加速させる、ということです。

大切なことなので、もう一度言います。
キョロキョロは学びを加速させる。

これには同意していただけるのではないでしょうか。

いわば「キョロキョロ力(周囲を観察する力や、素直な謙虚さ)」があると、技芸を習得したり、人間関係を構築したり、トラブルを回避したりするのに大いに役立ちます。

みなさんも振り返ってみてください。
キョロキョロしながら「この人はこうやっているんだ」「こうやったら失敗するんだな」と学びを得た経験は、数えきれないほどあるのではないでしょうか。

とはいえさきほどお伝えしたように、キョロキョロは過剰に働くと「自信がなさそうに映る」とか「先陣を切って行動できない」といったネガティブな結果をもたらすこともあるのは事実。一長一短であることは否めません。

ただそれでも、負の側面だけにフォーカスするのは本質をとらえていませんし、もったいない解釈だと思いませんか。

ここで共有したいのは次の仮説です。

キョロキョロは忌み嫌うものではなく、むしろ学びを加速するのに有効である。
そして、日本人全般に当てはまる特性と仮定するなら、キョロキョロ感を意識的にかもし出すことで、「やる気」や「頑張り」が伝わり、相手はあなたに好印象を抱くのではないか。

これはみなさんも容易に想像できると思います。

たとえば、次のような文章。

● すみません、こういう理解で合っていますでしょうか……。
● ありがとう。君にそう言ってもらえて安心した。

こういうメッセージが送られてきたら、上司だろうと部下だろうと、静かな親近感を抱いてしまわないでしょうか。少なくとも悪い人には見えないはずです。

多少の不安がにじみ出ていたほうが応援したくなる。守ってあげたくなる。
それが人の自然な感情です。そしてこの感情を立ち上げさせるのに有効なのがキョロキョロなんです。

自分の学びの促進にも、敵をつくらないコミュニケーションにも役立つ。
キョロキョロって、すごく大事な技術なんです。

庄子 錬(しょうじ・れん)
1988年東京都生まれ。編集者。経営者専門の出版プロデューサー。株式会社エニーソウル代表取締役。手がけた本は200冊以上、『バナナの魅力を100文字で伝えてください』(22万部)など10万部以上のベストセラーを多数担当。編集プロダクションでのギャル誌編集からキャリアをスタート。その後、出版社2社で書籍編集に従事したのち、PwC Japan合同会社に転じてコンテンツマーケティングを担当。2024年に独立。NewsPicksとnoteで文章術をテーマに発信し、NewsPicksでは「2024年、読者から最も支持を集めたトピックス記事」第1位、noteでは「今年、編集部で話題になった記事10選」に選ばれた。企業向けのライティング・編集研修も手がける。趣味はジャズ・ブルーズギター、海外旅行(40カ国)、バスケットボール観戦。

※この連載では、『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』庄子 錬(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集して掲載します。