無意識で見えない呼吸を
「可視化」するには?

大貫 めちゃくちゃあります!湯や水の圧力を身体に受ければ、身体は自然と息を吐く方向に転じていきます。温泉やサウナに入れば息が吐けるので、入浴時も呼吸に意識を向けてほしいのですが、なかなか認知が広がりません。

藤田 温泉やサウナが心地良いのは、息を吐くことで得られるリラックス感も関係しているのでしょうか。

大貫 その通りです。リラックスすると、副交感神経が優位になります。ヨガやピラティスなども同じ論理ですね。総じて息を吐く行為はウェルビーイングな呼吸だと考えていますし、心地よさにつながるんです。

藤田 確かに呼吸で心地良さが得られるというのは、頭ではわかっているけれど実感しにくいかもしれません。呼吸はあまりにも無意識だから。何か、息が吐けていることがわかるバロメーターがあるとよさそうです。無意識に行われ、見ることも叶わず、実感が薄くなりがちな呼吸を代弁する何か……。

大貫 吐く息の様子がわかるデバイスなどはいかがでしょう。呼吸のサポートデバイスがあると、呼吸そのものに意識を向けやすくなります。実際、呼吸の動きを可視化できるアプリや、深呼吸のサポートデバイスも開発されています。呼吸を変えていくためには、1日1、2回でも意識した方がいい。無意識の呼吸の中でも意識する瞬間をつくることが大切なんです。

藤田 サポートデバイスは呼吸を意識するためのアテンションツールにもなりますね。わかってきた気がします。呼吸のような見えないものを可視化していく。それは、呼吸数や呼吸の動作であったり、吐く息そのものであってもいい。既存の呼吸系アプリなどと組み合わせてもいいし、現代人における呼吸の実態を調査する大規模実験でもいい。見えなくても、無意識でも、その先の心地よさを含めたメリットが確かであれば、それを可視化することで人々の心を捉えることができるはずです。こういった価値創造のロジックが、新しい市場の夜明けにつながると思います。

大貫 崇(おおぬき・たかし)/2006年フロリダ大学大学院で応用運動生理学の修士を取得。MLBインターンやNBA D-League、スポーツ医学クリニック勤務を経て、2012年からMLBアリゾナダイヤモンドバックスマイナーリーグアスレティックトレーナー。帰国後、15年よりPRIジャパン教育コーディネーターを務め法人化に尽力。22年に「呼吸専門サロンぶりーずぷりーず」を京都にオープンし、現在では、きほんの呼吸(R)呼吸トレーナー養成講座で身体の専門家を育成する傍ら、企業との研究や新規事業開発などを行う呼吸コンサルティング事業を展開している。大阪大学大学院医学系研究科にて特任研究員。著書に『きほんの呼吸 横隔膜がきちんと動けば、ムダなく動ける体に変わる!』(東洋出版)など。

構成/瀬名清可(Weekend.)