トヨタが国内生産の維持に自信を見せるのは、国内販売の基盤がしっかりしていることも影響しているだろう。トヨタの24年度の国内生産は323万台で、そのうちの6割、194万台を輸出し、うち米国向けは54万台と輸出全体の28%を占める。一方、国内販売は約150万台で、国内生産300万台の半分は国内需要でまかなうことができる。それだけ、トヨタには、全国の強い地場トヨタディーラーの地域に根差した販売力があるということだ。
そこがホンダと日産との違い、格差ともいえる。ホンダは過去に、生産と同様に販売でも国内100万台販売体制を目指した。だが、現在国内の販売台数は70万台の目標にとどまり、その大部分が軽自動車に支えられている。「ホンダは軽メーカーか」と言われるほどだ。日産も1990年のピーク時は国内140万台を販売してトヨタとライバル関係にあったのが、近年は50万台ラインにも届かず国内5位メーカーにとどまっている。
また、トヨタは、国内年間150万台という高い販売力を持ちながら、新車販売収益だけに頼らず、アフタートータルサービスといったバリューチェーンでの収益を拡大させる収益構造へシフトしつつある。このバリューチェーンビジネスの収益は、ここ数年、毎年1500億円ペースで増えており、26年3月期は2兆円を超える水準まで拡大する見込みだ。今後ともメンテナンスサービスの拡充とともにコネクティッド技術を活用したファイナンスや保険事業との連携強化、さらには中古車事業や用品事業の拡大を通じて、1.5億台に上るトヨタ車の保有台数の価値をさらに高めていく計画だ。
トヨタは、国内販売力をベースとして、国内販社とサプライチェーンとともに国内300万台生産体制を守りつつ、生産停止の影響で落ち込んだグローバル生産を1000万台の巡航速度に回復させている。
中長期的には米国への現地化を深めるだろうが、国内生産分については、輸出先の多様化を図ることで、現在の国内生産体制を維持していくことを生命線とする。トヨタが日本自動車産業の代表として雇用を守り、国内空洞化を避けていく経営に変わりないことを今決算発表でも示してくれた。
(佃モビリティ総研代表 佃 義夫)